天野氏の猛追かわす?「嵐の船出」だ!

「市民の2人に1人が批判的」

 「天野氏の猛追かわす」は、静岡市長選で田辺信宏氏勝利に対する中日新聞の見出し。「嵐の船出」は川勝平太静岡県知事が記者らに話したことばで、各紙が使っている。

 当選後、田辺市長は静岡県庁を訪れ、川勝知事に非公開で6分間だけ面会した。新聞報道によると、「選挙中、知事に仲良くしてほしいという声をたくさんいただいた。今日しかないと思い、知事に会いに来た」「これまでのことをノーサイドにして未来志向で県といい関係をつくりたい」という田辺市長の思いだったが、川勝知事は「(不仲を)チャラにしたいなら、市民がつきつけた批判を謙虚に受け止め、話し合うことが大事」「市民の2人に1人が田辺氏に批判的で『嵐の船出』だ。市民が立ち上がればリコールもありうる」など厳しい姿勢を見せた。知事はこれまで批判した田辺氏の施策について、田辺氏が何らかの対応を見せる用意もなく単なる”表敬訪問”のつもりで県庁を訪れたことに大いに不満だったようだ。

 選挙結果で言えば、田辺氏13万8454票に対して、天野進吾氏10万7407票、林克氏3万3322票。2人の対立候補の得票を足せば、14万票余で田辺氏を上回り、知事の言う2人に1人は田辺氏に批判的ということになる。

 しかし、天野氏には3万票余の大差をつけている。これで、なぜ、天野氏”猛追”との見出しがついたのか?

静岡市長選、全国で最も遅い”当確”

 7日投票の終わったあと、全国放送で選挙特番が始まった。投票終了後の午後8時に番組が始まると、浜松市の鈴木康友氏をはじめ全国の知事選、政令指定都市の市長選でほとんどの当確が打たれた。残ったのは、保守分裂で総務省官僚同士の一騎打ちの激しい選挙戦となった島根県知事選と静岡市長選のみだった。

 午後9時50分前には島根県知事選の当確が打たれた。

当確を今かと待ち構えた田辺氏選挙事務所

 残ったのは、静岡市長選のみになった。静岡市長選は保守分裂でもなく、自民推薦、連合支援をはじめ各種団体の支援を受け、それも現職2期目の田辺氏優勢は動かないから、何の問題もなく、ふつうに午後8時過ぎに田辺氏の当確が打たれると予想された。ところが、田辺氏の当確が出たのは、午後10時20分頃だった。激しい選挙戦の展開された島根県知事選ならば理解できるが、田辺氏当確がなぜ、全国で最も遅い時間となったのか?天野氏との差は3万票だったから、少なくとも島根県知事選よりも早く当確が打たれて問題なかったはずだ。保守王国島根を分裂させた県知事選よりも、さらに30分、全国で最も遅い時間の当確は何を意味するのか?

 中日新聞の静岡市長選特集で、田辺氏の選対幹部が「葵、駿河区で勝つのは当たり前、清水区で(新人2人の合計票より)1%でも多くの票を取らないと、次の4年に支障をきたす」と発言した。そのくらいの自信があるのもうなづけたが、その結果はどうだったのか?

 全国で最も遅い当確と清水区の得票数の持つ意味は大きい。

天野氏”猛追”は単なる幻想だが…

 清水区の田辺氏得票は4万5019票、天野氏4万1802票、林氏1万2260票、天野、林合計票5万4062票。つまり、1%多いどころか、20%、約1万票以上も少なくなっている。「次の4年に支障をきたす」どころか、これは大変な話かもしれない。

天野氏の県議辞職は共産議員を誕生させた

 葵区で天野氏の2倍近く、駿河区で1・5倍近くの得票を田辺氏は得ているのだから、終わってみれば、天野氏”猛追”は単なる幻想に近いのだろう。つまり、各社の記者は、七間町に新たに設けた大きな選挙事務所をはじめ、各種団体による万全の支援体制で田辺氏がのぞんでいた割に、得票が伸びず、力強さに欠けたことで、”当確”を打つのを躊躇したのだろう。

 午後10時開票が始まり、約20分も過ぎて、ようやく予想通りの田辺氏の勝利を確信でき、各報道機関担当者たちは”当確”を打った。

 記者たちを疑心暗鬼にさせたのは、川勝知事の存在が大きかったのかもしれない。

知事は一線を越えてしまった

 7日各社朝刊では、選挙戦最終日になって川勝知事が市街地で天野氏の応援演説のためにマイクを握り、天野氏支援を鮮明にしたことを紹介した。知事は自治体首長の選挙とは一切関わらないと何回も明言してきただけに、メディアもびっくりしただろう。「田辺氏の政治手腕をことごとく否定してきた知事が自ら定めた一線を越え、行き着くところまで行った印象だ。関係修復は容易でない」(中日新聞・広田和也記者)。田辺氏はこの記事を読まなかったのか。

 静岡新聞は『「ノーサイド」の説明 ほご』との見出し。記事本文には「ほご」は使われていないから、読者は「ほご」を「保護」と勘違いしたかもしれない。非常にわかりにくい見出しである。「ほご(反故)」は「ないものとする」の意味で使ったのだろうが、「ノーサイド」は知事がよく使う「チャラにする」と同じで、「帳消しにする」。この点、田辺氏は当選後、「これまでのことをノーサイドにして未来志向で…」と発言、こちらは知事と同じ意味で使っている。このあたりはラグビー好きの稲門会同士といったところ、お互いに理解し合える関係にあるのだが…。

 新聞見出し同様に川勝知事の行動は分かりにくかった。天野氏が市長選に勝利する見込みは非常に薄いのは分かっていて、応援演説で「市長特別補佐官」に副知事派遣などのリップサービス、これでは、冷静沈着な政治家ではなく、感情にまかせた発言、ただ単に田辺氏を嫌っていることを明らかにしたにすぎない。(知事に比べて話が上手ではなく、ナルシスト的なイメージが強いのが原因かもしれない。よい参謀がいないのだろう)

当確は遅れたが、投票率は低かった

 今回の投票率は葵区49・18%、駿河区46・08%、清水区50・62%、全体では有権者58万4837人に対して、28万5142人、48・76%。約30分前に”当確”が打たれ、激しい選挙戦が展開された島根県知事選は62・04%だったから、いかに静岡市長選が低調だったか推して知るべしである。

 「川勝VS田辺」シリーズを何度か、このニュースサイトで紹介している。たとえば、「”歴史博物館”建設は棚上げを!」をご覧いただきたい。それぞれの好き嫌いは別に、静岡市施策に対する課題、問題は多い。当然、田辺市政だけでなく、川勝県政に対しても批判すべきところは多いのかもしれないが、静岡市政のほうが目立っている。

 投票率の低いのは、争点が何なのか、判断材料となる「情報」が非常に少ないことだ。川勝知事は田辺市政を批判するのであれば、もっと丁寧に判断材料を市民に提供すべきだったかもしれない。

 国交副大臣の「忖度」発言で「下関北九州道路」への関心は全国的に高まったが、それほどには静岡市、静岡県の地域問題をほとんどの市民、県民は理解していない。

 昨年アメリカのニュージャージー州、ワシントン州、サンフランシスコ州を旅して、それぞれの地方新聞を読むと、全国の問題ではなく、自分たちの住む地域の問題に焦点を当て、本当に細かいところまで紹介していた。ところが、日本の新聞はすべてが中央の問題に目がいき、地域の問題はほんの少ししか取り扱っていない。また、地域の問題もほとんどは行政の発表記事が多いようだ。

 川勝知事のいう通り二重行政の問題は、静岡市の場合、さまざまなところに見られる。大きな争点がないのではなく、大きな争点が具体的に何であるか見せれば、投票率は上がるだろう。

 「投票へ行くと、どう変わる?」。静岡県選挙管理委員会はクリアシートを配布していたが、その中身をちゃんと説明、関心を持たせるにはどうしたらいいかだ。

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