CCRC?富裕層が静岡市を目指す理由

入居一時金は夫婦で6400万円

 脳死した男児(当時1歳)の肺を提供した両親が、大学病院やテレビ局などの対応に不満を持ち、損害賠償請求を近く起こすというニュースが5日新聞、テレビ等で流れた。これで、日本ではますます子供の脳死による臓器提供移植は進まず、その一方、アメリカに渡航、心臓移植などをするための寄付金活動がこれまで以上に多くなる可能性が高くなった。

 海外の臓器移植での寄付金目標額は半端な額ではない。ネット検索すれば、3億円や3億5千万円を目標に、〇〇ちゃん、✖✖くんなどの臓器移植募金活動が数多くヒットする。その内訳では医療費5000万円、渡航費5800万円など多額の費用が掛かることを説明。移植手術以外助からない子供の生命を救うのに3億円は非常に安いのだろうが、すべての人が支払える額ではない。

 先日、静岡市呉服町にできた「札の辻クロスビル」の住宅型有料老人ホーム(ロングライフクイーンズ静岡呉服町)のチラシを見て、びっくりした。夫婦入居タイプの部屋(45・8平方㍍)で、入居一時金「6400万円」!そんな高額な費用を支払える裕福な夫婦は静岡市内にどのくらいいるのだろうか?入居資格は65歳以上だから、ほとんどは年金生活世代だ。

 入居時の6400万円だけではない。毎月の支払いは、管理費26万1千円、食費(3食)は1人当たり7万2千円の14万4千円。合計で毎月40万5千円+電話代、美容健康費、医療費、外食交際費など自己負担も必要だ。6400万円を支払った上に、毎月約50万円もの費用を支払えば、十年で6000万円、二十年で1億2千万円だ。当然、通常の費用以外に思い掛けない出費が出てくる。ちょっと長生きすれば、海外での臓器移植と同様の3億円(夫婦2人)になるかもしれない。

健康長寿には3億円程度必要だ

 江戸の昔は、十両盗めば打ち首という時代だった。父親が川で溺れてしまい、泳ぐことのできない息子は途方に暮れていると、通りがかりの男が「十両出せば助けてやる」と言う。息子「三両しか出せません」と頭を下げると、男「仕方がない。七両に負けてやる」。溺れていた父親がそれを聞いていて「息子よ、それ以上だすな!それ以上だすくらないなら、わたしは溺れて死ぬ」。この笑い話を現実に置き換えると、なかなか深い意味を持つ。臓器移植が必要な難病の子供がいても、3億円なければアメリカへ渡航して、臓器移植の順番待ちに加わることはできない。寄付金を待っていられない両親は、子供のために3億円を借金できるのだろうか?

 子供の生命を救うためとはいえ、両親は3億円の借金を躊躇するかもしれない。簡単なことだが、寄付による善意の3億円は返さなくていいが、借金の3億円は利子をつけて返さなければならないからだ。

 呉服町にできた札の辻クロスのマンション型有料老人ホームに入れば、健康でぼけることなく、長生きできるのであれば、高齢者たちは何としても資金を用意したいと思うだろう。施設を見ると、8階から12階のマンションタイプの部屋は26平方㍍(1人用)から46平方㍍(2人用)であまり広くはないが、豪華でさまざまある共有施設やスタッフの支援など快適な生活を送ることのできるよう工夫されていた。

 一番の問題は、65歳以上の夫婦はいまから借金できないだろうから、そこへ入居するためには夫婦で頑張って3億円くらいの貯蓄が必要だ。

真の狙いは富裕層の静岡市移住

 チラシのキャッチフレーズに「静岡市とロングライフの官民一体プロジェクト CCRC(生涯活躍のまち静岡)」とあった。そうか、静岡市が有料老人ホームを後押ししているのだから、ここで暮らせば「健康長寿」を保証してくれるのか。

 再開発ビル「札の辻クロス」は13階建てで、1~2階は商業施設、3~5階は駐車場、6~7階は健康関連施設と多目的ホール、8~13階が有料老人ホーム84室だ。CCRC構想は、田辺信宏市長が推進する5大構想の1つ「健康長寿のまちづくり」を実現するための重要施策だと説明。

 昨年10月の開業直前に有料老人ホームを運営する会社が変更した。その理由は明らかにされていない。8~13階の所有者が前の運営会社との契約を解除、入居時費用や月額の管理費用の面で齟齬があったようだが、民間同士のことだから、静岡市は説明を避けた。当時の新聞や仲介業者HPを見ると、引き継いだ運営会社日本ロングライフの入居一時金は約1880万円~3770万円とうたっていたが、システムをかえて現在のチラシ等にある6400万円などに変更したようだ。

1日1500円で生活体験の部屋

 CCRCの取り組みは、高齢者を対象とした静岡市中心街での生活を提案。直接的な事業として、1、地域交流を促進するコンシェルジュの配置、2、お試し移住体験(静岡市が有料老人ホームの一室を借りて、1日1500円で生活体験する)、3、健康関連イベントの実施を挙げている。

 人口減少対策として、東京などの富裕層の高齢者を静岡市へ移住促進することが狙いだという。いまのところ、10組(1人あるいは2人)が生活体験に参加しているが、東京からの参加者は極わずか。

 ロングライフの担当者によると、84室のうち、25室程度が契約をしたようで、そのうち7割程度は静岡市在住者、平均年齢83歳とのこと。この数字を見ると、CCRC構想はこれからといったところか。実際にはこれで運営は大丈夫なのか、担当者に聞きたくなったくらいだ。

 すぐお隣にある29階建て呉服町タワーマンションの賃貸物件は入居一時金(敷金、礼金)72万円程度、1LDK57平方㍍17万8千円、2LDK75平方㍍24万円、毎月の管理費・修繕積立金、固定資産税など5万円程度。こちらも決して安くはないが、札の辻クロスの住宅型有料老人ホームがいかにずば抜けた超高級感で売っているのかがわかる。

 ロングライフは住宅型有料老人ホームを、京都嵐山、兵庫県の苦楽園芦屋別邸などブランド力の高い地域で運営。果たして、静岡市呉服町に首都圏等から超富裕層の高齢者が移り住むことになり、静岡市の掲げる「地方創生の取り組みモデル」なるのかどうか、しばらく注目していきたい。

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