日本平夢テラス 「稼ぐ」ことを意識せよ!

富士山の眺望が売り物

 静岡県と静岡市が整備した日本平山頂シンボル施設「日本平夢テラス」(静岡市清水区草薙)に出掛けた。法隆寺夢殿を模した八角形3階建て展望施設は1階展示エリア、2階喫茶ラウンジ、3階展望フロア、大型モニターによる富士山映像、約2百㍍の展望回廊デッキがあり、入場は無料だ。

 

2つの石碑が日本平夢テラスのコンセプト

 整備費用は約17億円で年間約30万人の入場客を見込んでいる。芝生庭園の東側に建立されている梅原猛氏「国土は富士なり」、中曽根康弘氏「富士山」の2つの石碑が展望施設のコンセプトを語っている。「富士山の眺望を世界にアピールしたい」。川勝平太知事の思いが詰まった施設である。日本平夢テラスからの富士山眺望は絶景であるが、年間を通して富士山を眺望できるのは150日程度である。せっかく富士山の眺望を期待して、日本平夢テラスを訪れてもがっかりする場合も多いだろう。

「まずすべきことが山ほどある」

静岡市で開催されたシンポジウムで話すアトキンソン社長

 小西美術工芸社のデービッド・アトキンソン社長はビジネス書のベストセラー「新・観光立国論」(東洋経済新報社)の中で「静岡県は2015年になってから、日本平に記念碑を建てるなどして眺望のよさを世界中にアピールしていますが、それよりもまずすべきことが山ほどあるのではないでしょうか」と厳しい意見を述べていた。

 せっかくの観光資源を持ちながら「多様性」という発想がないばかりに、その魅力を引き出すことができず、外国人観光客も多く訪れていない。そんな観光資源の代表が「富士山」だ、とアトキンソン社長は指摘する。「多様性」という視点で、観光コンテンツを一つひとつ考え、戦略的に「観光立国」にしていくための整備をすべきだというのだ。

 外国人観光客の関心が高い「日本文化の体験」や「神社仏閣という歴史的資産」をしっかりと整備、日本人が守ってきた「文化財」を整備することが重要だというのが、アトキンソン社長の持論だった。

説明にある「本物」を見たいが?

1階の展示コーナー

 翻って、日本平夢テラスを見てみよう。1階は「日本平」の歴史などを紹介するコーナーだ。日本平の地形の成り立ちをプロジェクションマッピング(立体物をスクリーンとして映像で見せる技法)で紹介、日本語のナレーションの他に英語、韓国語、中国語の表示があったので押してみると、音声が替わるのではなく、映画のサブタイトルのようにそれぞれの言語の翻訳が表示されるだけだった。外国人観光客には期待外れだろう。

 厳島神社の平家納経とともに平安後期を代表する装飾経・国宝久能寺経(清水区の鉄舟寺蔵)のていねいな紹介があり、その美しい画像と素晴らしい説明を読めば、多くの観光客はぜひ、本物を見たいと考えるだろう。ところが、久能寺経は現在、東京国立博物館に預託され、鉄舟寺に展示されていない。

既存施設への影響は?

こちらにも3階屋上に展望台

 2015年12月、日本平までのアクセス等の社会資本整備が遅れているため、日本平展望施設の完成によってこれまで久能山東照宮、日本平ホテル等へ訪れていた観光客が、新施設等を巡回することで時間的制約から既存観光施設への訪問客の大幅な減少が予想され、危機的な状況に陥る可能性を指摘、既存施設への影響等ないことを要望した。静岡県担当課は、既存観光施設への影響はほとんどないと断言していた。当然、当時の担当者はすべて入れ替わっている。

 このため中途半端な施設になってしまったのか?施設そのものは民間の指定管理者に委託する。つまり、税金で運営されていく。アトキンソン社長は日本の観光地(文化財)はもっと「稼ぐ」ことを意識せよ、と言っていた。富士山の眺望にお金を支払うことはないのだろうが、日本平は「名勝」というれっきとした指定文化財である。「多様性」を持たせて整備していき、ぜひ、多くの外国人観光客に訪れてもらうとともに、「稼ぐ」ことのできる観光地にすべきだ。

 2015年6月に開かれた「日本平山頂シンボル施設基本構想策定委員会」で、委員の一人が「日本のシンボル富士山にふさわしい日本一の施設にすべきだ」と発言していた。その議論を聞きながら、芭蕉の俳句「霧しぐれ富士を見ぬ日ぞ面白き」が頭に浮かんだ。富士山の眺望がなかったとしても、日本平夢テラスは「面白き」時間を過ごせる「日本一」の展望台になったのだろうか?

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