「成年後見制度」のなぞ1 家裁の役割とは

親族後見人は不正を働く?

 朝日新聞19日付1面トップ記事に『成年後見「親族望ましい」』『選任対象 最高裁、家裁に通知』『専門職不評利用伸びず』という3本見出しの長い記事が掲載された。その記事は、ことし1月、最高裁が全国の各家裁に送った通知を基に書かれた。その通知「制度の利用促進を図るため、できる限り親族等身近な支援者を後見人に選任することが望ましい」を最高裁で確認した。使い込み不正のため、親族後見人は毎年右肩下がり、2018年では子供などの親族による後見人が23%にすぎない状況を改善する狙い。

 朝日記事によると『後見人の選任は各裁判官が個々の事案ごとに判断するため「あくまで一つの参考資料」』(最高裁家庭局)の見解も示している。これでは、利用促進策の趣旨を反映させるのは難しい。それだけ難しい事案が多いのだろうか。

 後見人等による不正報告件数は2013年662件、ピークの2014年は831件、約56億7千万円。その不正のほとんどが親族によるもので90%を超えていた。ああ、そうだったのか、最初に会った静岡家裁書記官(女性)のわたしに対する不審に満ちた視線の意味をようやく納得できた。

静岡家裁から突然の「照会書」

 2013年7月10日、突然、静岡家庭裁判所から封書が届いた。返信用封筒と「平成25年(家)第✖✖✖号 後見開始の審判申立事件」と記され、姉が母の後見開始の審判を求める申し立てについて、審理の参考にするため、以下の4点についてアンケート記入して返送を求める「照会書」が入っていた。

 1、あなたは、今回の申立を知っていますか。

 2、ご本人に後見等開始の手続きをすることについて、どう思われますか。

 3、ご本人の後見人に、裁判所が選んだ第三者(弁護士、司法書士、社会福祉士等)を選任することについて、どのように考えますか。

 4、その他、ご意見等があればお書きください。

 ここで言う「ご本人」とは母のことだ。たったこれだけのアンケートでも簡単に理解するのが難しい。とにかく詳しい説明を受けようと、家庭裁判所に出向いた。そこで、担当する女性書記官に会ったのだ。

 ところで、「照会書」アンケートには最後まで、何も記入しなかった。

成年後見人は母の希望?

 静岡家裁で事件番号✖✖✖号の「後見開始申立書」をじっくりと閲覧、指示したページをすべてコピー(有料)してもらった。

 とにかく難しい用語が多い。「後見・保佐・補助」のうち、「保佐」は「補助」とどう違うのか分からない。「後見」に手書きで〇印が入れてあった。島田市の弁護士が申立代理人だった。当時、母(当時87歳)は実家(島田市)から介護付き有料老人ホーム(静岡市)に入所して、2カ月もたっていなかった。

 びっくりしたのは、弁護士が書いたと思われる「申立ての理由及び事件の実情」の(特記事項)だった。

「現在、本人(母)の預貯金、保険等の金融資産はすべて長男(わたし、申立人の弟)が管理中であり、申立人は無論のこと、本人は一部を除きその内容を全く把握していない。本人の希望としては、自らの財産を長男にすべて開示してもらった上で、実子のいずれかではなく、弁護士等の専門職(第三者)に管理を委ねたいと思っている」とあった。

 これでは、母の財産をわたしがすべて恣意的に独占して、場合によっては使い込む可能性があり、姉は成年後見制度に「正義」を求めたとしか思えないだろう。

 本人(母)が希望?その日も、自宅近くの施設へ出向き、母に会っていたが、こんな話は出なかった。母が何も言わないはずがない。

 家裁から送られた「照会書」を見てすぐに、やって来たのは後ろめたさのためであり、わたしに向けられた書記官の視線は「いまさら何を言っても遅いですよ」と冷ややかに諭しているように見えた。

医師と弁護士の相対立する主張

 その約1年前に父が亡くなり、母、姉との遺産分割協議書をわたしが作成した。そのときも姉は弁護士を立たが、今回の弁護士は全く別人だった。なぜ、弁護士を変えたのだろうか?

 申立書に添付された診断書(成年後見用)をじっくりと読んだ。母に付き添い何度も面会した、島田市の脳神経外科医が担当していた。それですべてがようやくわかった。認知症の長谷川式検査19点、その検査日付は5月13日となっていた。

 その2か月前、自宅から静岡市の有料介護施設へ母はお試し入所した。体験入所(1週間)を経て、1週間ほど自宅に戻り、姉が母を正式に施設へ連れてきた。その1週間で脳神経外科医院、その近くにある弁護士事務所へ連れて行ったのだ。

 診断書の「本人の能力に関する事項」で「制度や申立ての意味を理解して意見を述べることは不可能である」にチェック、さらに「言葉・筆談等で周囲の者と意思疎通ができないか、できるようにみえても意味が通じない、または通じないことが多い」にレ点が入れてあった。

 まてよ、これでは弁護士の(特記事項)と矛盾するではないか。そこで、わたしは「『本人の希望として、弁護士等の専門職(第三者)に管理を委ねたいと思っている』と(特記事項)に書いてあるが、医師の診断書では『制度や申立ての意味を理解して意見を述べることは不可能』としてある。診断書は、母を心神喪失の状態としているのに、弁護士は『希望する』などの会話ができるなど全く正常な識別能力があると書いている。これは全く信用できない申立書ではないか」と書記官に疑問を述べた。

静岡家庭裁判所

 わたしの意見に、書記官は何も応じず「もし、この申立書に何か意見があるようでしたら、別の文書で提出してください」などと話した。裁判所書記官は何らかの判断をしてはいけないのかもしれない。

 しかし、こんな矛盾した申立書をおかしいと裁判所が判断できないようではムダな時間と費用が掛かるだけになる。

死ぬまでにお金を使い果たす

 2カ月前、母が入所した施設の個室には現金、通帳等を置かないことが規則。近所のファミレス、食堂や移動販売のパン屋、雑貨、衣類など購入も施設がすべて立て替えてくれ、月末に母の口座から引き落とす仕組み。施設の美容室、鍼灸マッサージなど希望で何度も受けられ、週1回の主治医往診などもすべて口座払いだったから、現金は全く不要だった。

 当然、わたしが通帳類を管理していた。また、銀行の本人確認は年々厳しくなり、わたしが勝手に現金を引き落とすことなどとうてい無理だった。

 10年以上前の両親との会話を思い出した。父から財産管理の相談を受けた際、「生命保険」など不要だからやめるようアドバイスした。

 経営コンサルタント、大前研一さんは「日本人は死ぬ瞬間が一番金持ち、イタリア人は生きている間に使い果たす」と言っていた。「貯めたお金はなるべく自分たちの人生のために使い切ったほうがいい」とアドバイス。両親たちの貧しい苦労した時代をよく知っているだけに、生命保険などすべて解約して、それでどこかに旅行するよう話した。

 2人は厚生年金で十分すぎるほど生活できていた。田舎暮らしであまり使わないから、預貯金は増える一方だった。父は車を乗り換えるのが趣味だったが、突然、亡くなってしまい大切な財産を使い果たすなどできなかった。

家裁調査官を派遣してほしい!

 当時、母は大声でないと聞こえず、その上、補聴器を嫌うから、他人との会話はスムーズにできなかった。加齢による物忘れもしばしばあった。ただ、長年経理の仕事をしてきただけに数字には強く、特に財産管理について正常な判断ができた。父が亡くなったあと、介護保険認定を受け、介護度1に認定された。「後見」対象となる「判断能力が全くない」認知症であろうはずもなかった。(詳しくはニュースの真相「認知症のなぞ1 家庭裁判所の『診断書』」をご覧ください)

 後見開始申立書に本人以外の申立の場合、申立付票1、2が付いていた。そこに「家庭裁判所調査官が本人のところへ面接調査へ行く場合がありますが、留意点(訪問可能な時間帯、訪問する際の本人の精神面への注意等)があれば記載してください」とあった。

 何だ、簡単だ、家裁調査官に母の施設へ行ってもらい、母の状態を確認すればはっきりとするだろう。そうすれば、母が成年後見を望んでいないことがはっきりする。成年後見がどのような制度か母には理解できていないだけだろう。母はたとえ弁護士でも赤の他人が自分の財産を管理することなど望んでもいない。調査官が大きな声で、わかりやすく言ってもらえれば、母にも十分理解できる。そうすれば、ムダな時間と費用を使わなくて済むだろう。

 「まず、調査官の派遣をお願いします」。書記官にそう言ったのだが、やはり、先ほどと同じで「申立書に何か意見があるならば、別に文書で提出してください」と言った。当時は全く知らなかったが、国の方針で制度の利用促進が重要だったから、書記官はその方針に従っていたのかもしれない。

 成年後見制度って一体何なのだ?裁判所が話をわざわざ難しくしているのではないか?もし、申立が増えたら、本当に対応できるのだろうか?

 次回は事件の当事者としてではなく、静岡家裁で取材してみた成年後見制度とは何かを紹介していきたい。

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