川勝VS田辺3 静岡市長選での戦い方

77歳天野氏の出馬、70歳川勝知事が称賛

 静岡市長選(4月7日投票)に難波喬司副知事(62)擁立に動いた天野進吾県議(77)が立候補表明、田辺信宏市長(57)と戦うことになった。びっくりしたのは、何よりも20歳も違う年齢差だ。昔、77歳は喜寿と呼ばれる長寿を祝う年齢だった(いまもそうかもしれないがー)。

静岡駅前の家康像。70歳くらい?

 江戸270年の平和時代の礎を築き、75歳(数え年、満73歳)の長寿を全うした家康公が「目は霞(かすみ)耳は蝉鳴りは歯は落ちて雪をいただく年の暮れかな」(「校合雑記」四)という狂歌をつくり、晩年の感慨を読んだのは遠い昔か。ベストセラー小説「終わった人」(64歳の男性が主人公)につづく、「すぐ死ぬんだから」(いずれも内館牧子著)は元気いっぱいの78歳女性が主人公だ。

 「よく決断された」。川勝平太静岡県知事(70)は、30年前に旧静岡市長だった天野氏の出馬を絶賛した。知事が天野氏を支援する構図がはっきり見える。

 川勝知事が肝入りする「健康寿命の延伸」を目的とした「社会健康医学大学院大学構想」の人生区分では、77歳を「初老」、知事の70歳を「働き盛り」としているから、天野氏出馬は、まさに静岡県の「健康寿命」モデルにぴったりと考えたのだろう。ことし1月1日現在で、静岡市の天野氏と同じ77歳人口は9085人、田辺氏の57歳人口は8593人でこちらも天野氏が圧倒。静岡市には寝たきりの77歳はいないだろう(多分?)。

 もし、天野氏が市長就任すれば、県庁所在地市長の最高齢(現在は佐賀市長の76歳)となり、全国から大注目を集めるのは間違いない。

 「60、70鼻たれ小僧おとこ盛りは百から百から」(平櫛田中)。年齢ではとうていかなわない田辺氏はどのように巻き返すことができるか。

静岡市の課題は若い女性の流出

 当然、選挙戦はそれぞれの年齢や健康を競うものではない。静岡市の未来を決める政策を競い、その政策実現に期待、投票するのが選挙である。

 昨年9月、日本銀行の黒田東彦総裁(74歳)が静岡市を訪れ、「人口が全国に比べて高い率で減少し、特に若者や女性が首都圏に流出している」と分析、まさにその若い女性の人口減少が静岡市の最大の課題である。

 「静岡市、推計人口70万割れ 政令市で初か」(2017年4月7日日経新聞)。各紙一斉に静岡市の人口が70万を割り69万9421人と大々的に伝えた。全国に20ある政令指定都市で70万人を切ったのは静岡市だけだから、一大事、市民に衝撃を与えた。静岡市は東京・有楽町に移住相談窓口をつくり、学生の新幹線助成を行うが、残念ながら、人口減少を止められない。

 静岡市人口は30歳を境に、男女の違いがはっきりとする。30歳超はほぼ平均して男女の人数は同じだが、30歳以下の若い世代になると、各年齢の女性数が男性よりも2百人から4百人も少ないのだ。つまり、黒田総裁の分析通り、若い女性が首都圏などに流出してしまっている。

 静岡市は、若い女性たちが住みたい街になっていない?

解決策は「女性活躍」と「コンパクトシティ」

竹内日銀支店長に人口減少の対応策を聞いた

 黒田総裁の課題分析に対して、当然、日銀は処方箋を考えているはずだ。日銀静岡支店を訪れ、竹内淳支店長に聞いた。竹内氏は人口減少を止める対策として、「女性活躍」と「コンパクトシティの重要性」の2つのキーワードで対処することを奨めた。

 昨年3月、竹内氏は前任の甲府支店から身延線に揺られて静岡へ赴任した。身延線の山並みの景色から、富士市から静岡市へと入ると「光あふれて都会を感じた」という。自転車で静岡市内を回ると、「非常ににぎわっていて活気ある街並み」と評価は高い。駅前から呉服町通りの歩行者天国は歩きやすく、週末ごとのイベントに若い家族連れなども詰め掛ける様子も魅力的。それならば、若い女性にも気に入られるはずだが?

 何かが足りないのだろう。

 「にぎわいのあるエリアとその影響を受けているエリアのギャップの問題」と分析。たとえば、空き店舗や空き家がそのままになっているエリアが中心部にも広く分布し、その所有者らと街づくりのデベロッパーなどと橋渡しし、開発の妨げになる規制緩和を含めて手助けする役割を行政が担い、コンパクトシティ創設につなげるのが解決策に近づくようだ。

 にぎわっている中心繁華街をどのように拡大していくか。そこに交通弱者となる高齢者や若い女性の生活する場所をもたらすことができるのかなど、田辺市政も推進してきたが、なかなか効果は見られない。

 竹内氏提供の資料に、平均賃金の男女格差を示す統計調査で静岡市は全国ワースト2位だ。「給料の高い女性向きのビジネスが地域の好循環を生んでいく」というが、東京並みの女性の給料を支払う企業を増やすにはどうするか。

 いずれにしても、静岡市長はどのような政策を示すことができるかだ。

人口70万超を死守できるか

 人口70万の政令市というブランドは極めて重要だ。2017年4月に70万割れと大騒ぎしたが、人口を知る統計数字は推計人口だけでなく、住民基本台帳(世帯ごとに住民票を基に作成した台帳)がある。

 こちらの数字では「70万1937人」(2月1日現在)。かろうじて70万を維持している。住民基本台帳は1月1日住所で個人住民税の課税対象や選挙人名簿となるから、個々人には重要な届けである。ただ、住民票を家族の元に置いたまま、東京の学校に進学していたり、あるいは逆に東京から単身で静岡に赴任、住民票はそのまま東京に置いてあったり、個々人の事情で住民票の移動なしで転出入している場合も多いから、住民基本台帳の数字が正確に人口に反映されていないのは確かだ。

 人口について議論するとき、国勢調査による推計人口と住民基本台帳人口の2つがあり、両方とも決して間違った数字ではない。国勢調査による数字は各戸を調査員が回って確認するから、信頼性が高いと言われるが、外国人や夜間に働く人たちなど国勢調査員を避ける場合も多々ある。

 国会での統計不正にかかわる審議を見ていて、統計数字はひとつの重要な指標だが、正確性を欠くのはやむを得ない場合もある。

 静岡市人口は現在「70万1937人」。この数字は70万を割っていないから非常に響きがよい。ただし、何もしなければ今年中に70万を割るのは確実だ。

70万割ったら、政令市返上を!

 静岡市のピーク人口は1990年の73万9300人(人口推計)。当時の旧静岡市長を天野氏が務めている。静岡県の人生区分では、平均寿命を超える88歳以上を「長老」としているが、さすが静岡市でもその年齢になるとぐっと少なくなる。亡くなる人も多く、それが減少の一番の理由だ。

 ところで、静岡市は、高齢の家康が過ごした”隠居の場所”で、若者ではなくお年寄りの街のイメージが強い。それは大間違いである。

江戸城よりも大きい駿府城の模型

 家康は将軍職を2代秀忠に譲ったあと、駿府(静岡市)に移り、オランダ、英国との通商条約を締結する外交、金座・銀座など金融財政の実権を握り、江戸と二元政治を行った。家康は駿府に隠居したわけではない。当時の江戸人口15万人、駿府は10万人超、現在発掘が行われている駿府城天守閣は江戸城の規模を上回り、駿府は江戸、京都、大坂と並ぶ日本の大都市だった。

 政令市の指定要件は法律上では「50万以上」と書かれているが、実際は「大都市性の面において大阪、横浜など既存の指定都市とそん色がないこと」を求められている。「70万を割るようなことがあれば、政令市を返上する」。両候補には、そんな覚悟を示す政策を示してほしい。70歳知事が支援する77歳天野氏は、全国から若い女性を呼び込み「77万都市」となる奇抜な公約を打ち出すに違いない。それに対して現職の田辺氏は守りではなく、びっくりするくらいの積極策で対抗してほしい。駿府城の家康公も若い女性が大好きだったという記録があるから、たくさんの若い女性が定住したい街づくりを2人の公約としてほしい。

※タイトル写真は、田辺氏の七間町に設けた後援会事務所。1987年に天野氏が市長に就任しているから、「起点としての80年代」展も何か意味深である。

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