リニア騒動の真相91難波副知事「ダブスタ」疑惑?

難波副知事”謝罪”の意味は?

 7月22日付東洋経済オンラインに難波喬司副知事が、7月9日付静岡新聞夕刊1面トップ記事に激怒した記事をリニア問題との関連で紹介した。静岡県、リニアと熱海土砂災害で「ダブスタ」疑惑 | 新幹線 | 東洋経済オンライン | 社会をよくする経済ニュース (toyokeizai.net)

 難波氏が激怒した理由は、県リニア会議地質構造・水資源専門部会委員で株式会社サイエンス技師長の塩坂邦雄氏が9日午前、静岡県庁で記者会見を行い、熱海土砂災害で人為的な開発による「河川争奪」があったとする独自の見解を示したことだ。難波氏は同日夕方、静岡新聞夕刊を読んで、塩坂氏のプレス発表内容が「誤り」であり、プレス発表を事前に静岡県に報告しなかったことは「不適切」などと批判した。

塩坂氏の記者発表を大きく取り上げた7月10日付毎日新聞朝刊

 後日談とも言えるが、難波氏があれだけ「誤り」「不適切」と批判したのに、毎日新聞が翌日(10日)朝刊地方版トップで塩坂氏の記者発表をそのまま記事にしたのには、ずっこけてしまった。塩坂氏のプレス発表を盲目的に信用しての報道かもしれないが、難波批判をひと言も取り上げない記事では、記者の資質に疑問符がつくだろう。メディアはどこも、塩坂氏への難波批判から、この関係の記事を取り上げなかった。となると、塩坂氏は静岡新聞、毎日新聞の大きな記事を見ただけであり、難波批判など全く知らなかっただろう。

 記憶にある限り、難波氏が塩坂氏を批判するのは初めてのことである。県のリニア会議に関連して、塩坂氏の「不適切」な発言や行動が繰り返されているが、難波氏は黙認している。今回の「熱海土砂災害」がリニア問題にも影響を及ぼす可能性があると関係者は予測していた。そんなときに、塩坂氏への難波批判が飛び出したのだ。

 東洋経済新報社の大坂直樹記者がわたしの原稿を手直しをして、『静岡県、リニアと熱海土砂災害で「ダブスタ」疑惑』という見出しをつけてくれた。「ダブスタ」?、ネットでは〇〇〇疑惑がキーワードになっているだけに、何だろうか?とつい、難波氏の会見写真=タイトル写真=をじっと見てしまった。

 難波氏による『ダブルスタンダード(二重基準。熱海土砂災害と違い、リニアでは塩坂氏の”お騒がせ発言”に難波氏が目をつむっていることを指す)』疑惑であり、大坂記者は、ちょっと長いので「ダブスタ」疑惑と略したのだ。何だ、そうだったのか。

 また、県政記者が「難波氏が15日になって、塩坂氏の名誉のために謝罪したのも、今後のリニア会議のことがあるから」と指摘した。前回の『リニア騒動の真相90大丈夫ですか?難波さん』とは全く違う見方があるものだとやはり、感心させられた。

 写真ひとつとっても、”真実”を見分けるのは非常に難しいようだ。

「新しいデータ出せ」を迫る県専門部会委員たち

 塩坂氏の「地下ダム」発言が登場した、2019年9月12日の県地質構造・水資源専門部会はあまりに異様だった記憶がある。

 「リニア騒動の真相」では、9月16日付『「筋違い」議論の行方』という題名で取り上げている。「ダブスタ疑惑」記事では、塩坂氏の「地下ダム」発言を批判した。

 2年前の『「筋違い」議論の行方』でも、「地下ダム」を取り上げた。『「地球温暖化で将来、降水量が12~13%増えると予測されている。この予測に沿った大井川の将来像を示せ」、「水環境のために西俣川に地下ダムを何カ所かつくればいい」などさまざまな専門家の要請』とあるから、塩坂氏らは、リニアとは関係の薄い無謀な要請をしている。

 「熱海土砂災害」報道で難波氏の塩坂批判があってから、議事録で「地下ダム」を確認すると、塩坂氏は「目先の代償措置では生態系を守れない。地下水枯渇の代償措置として地下ダムの説明をした」などと述べ、「地下ダムを考えるのか、そうでない場合は代替案を示すべき」とJR東海に迫っていた。まあ、いま考えれば”珍妙”以外の何ものでもない。

 ただ、2019年9月12日の会議は、塩坂氏の「地下ダム」発言が目立たないほど、県地質構造・水資源専門部会委員らの発言すべてが、常軌を逸していたから「筋違い」と指摘したのだ。

 12日付静岡新聞夕刊1面トップ記事は『リニア水問題 「JRの地質調査不十分」県連絡会議専門家ら見解』の見出し、翌日の13日付静岡新聞朝刊1面トップ記事も『リニア水問題 県とJR協議継続 連絡会議 データ、資料不足』の見出しであり、JR東海が提出した県の中間意見書に対する委員からの不満続出を伝えた。

 静岡経済新聞では、『12日の会議では「基本的なデータはすべて既存のものであり、新しいものではない」「畑薙山断層での鉛直ボーリング調査をやるべき」(塩坂邦雄委員)、「畑薙山断層西側でも3百メートルの断層がある。そこでも鉛直ボーリングをやるべきだ」「鉛直ボーリングを何本かやれ」(丸井敦尚委員)、「データを取る前に既存データの解析が行われていない」「新しいデータを出せ」(大石哲委員)など委員すべてが、「新たなデータ」を求める議論に終始した』と伝えている。「新しいデータ」がない限り、専門部会委員は議論はできないと言っているようなものだ。

2019年9月12日の森下部会長の囲み取材

 『JR東海は南アルプストンネル近くの西俣非常口ヤード付近で鉛直ボーリングを行うことを明らかにしている。しかし、通常、鉛直ボーリングを行い、データをそろえるためには半年以上掛かる。となると、当然、委員らが求める科学的議論の場は新しいデータを得た上で行うことになる。この点を専門部会の会議をまとめる森下祐一部会長に尋ねると、「専門部会としては鉛直ボーリングの結果が分からなくても許可を出さないわけではない」。その答えに愕然とした。あれだけ「新しいデータを出せ!」と言っておいて、必ずしも新しいデータを必要としないというのである。「狐につままれた」とはこのようなことだろう。』

 こうなると、専門部会委員の役割は、とにかく、「新しいデータを出せ」とJR東海に迫ることに尽きる。会議を運営しているのが、難波氏だった。

「その発言は看過できない」の発言者は?

 この会議のほぼ1カ月前、2019年8月20日に、同部会長の森下祐一静岡大学教授(当時)とJR東海との意見交換会が行われた。

2019年8月20日の意見交換会

 この意見交換会では、オブザーバーであり、意見を言うべき立場にない難波氏が、JR東海が山梨側からのトンネル工事中に湧水が流出することに触れたのに対して、「全量戻せないと言ったが、認めるわけにはいかない。利水者は納得できない。その発言は看過できない」など厳しく反発、紛糾した。ああ、やっぱり、難波氏が会議の方向性を決めていた。

 会議の後の囲み取材で、難波氏は「湧水全量が返せないことが明らかになった」などと述べた。翌日、21日付中日新聞、静岡新聞ともそろって1面トップで『JR「湧水全量は戻せず」 副知事反発』(中日)、『「湧水全回復一定期間困難』JR認識、県は反発』(静岡)などメディアは「湧水全量戻せず」のほぼ同じ内容の記事を大々的に報じた。

 かくて、難波発言によって、「水一滴」議論がスタートした。

 新聞報道から2日後の23日定例会見で、川勝平太静岡県知事は「湧水全量戻すことを技術的に解決しなければ掘ることはできない。全量戻すのがJR東海の約束だ」など「(静岡県の)水一滴」でも県外へ流れ出すことを容認できない方針を示した。当然、新聞、テレビは知事の「水一滴」発言を大きく取り上げた。

 実際には、JR東海がそのような約束をしたわけではないことは静岡経済新聞の2019年8月26日『リニア騒動の真相13「水一滴」も流出させない』で伝えている。詳しいことを知りたい読者は、この記事をご覧ください。

 シェークスピア『ヴェニスの商人』に登場する「血の一滴」にも等しい無理難題を言い出したのは、難波氏だったのだ。

2019年10月4日の異様な会議を演出したのは?

 そして、この2つの会議を経て、2019年10月4日の県地質構造・水資源専門部会の「トンネル湧水全量戻し」を議論する会議が開催された。

2019年10月4日の県リニア会議

 会議は、静岡工区のトンネル掘削は山梨、長野両県とも上り勾配で施工するため、先進坑が貫通するまでの間、山梨県側へ最大で約0・15㎥/秒(平均0・08㎥/秒)、長野県側へ最大で約0・007㎥/秒(平均0・004㎥/秒)流出することがトンネル工法上、やむを得ないのかを議論するのが目的だった。10カ月間で山梨県側2百万㎥、7カ月間で長野県側10万㎥の合計210万㎥流出することになる。流出を止めるためには、静岡県側から下り勾配で掘削するしかない。JR東海は作業員の安全のために下り勾配の掘削はできない、と主張してきた。本当に下り勾配の掘削ができないのか、もし、上り勾配の工法しかないならば、湧水流出をおさえる代替工法の検討をしたのかどうかの説明をJR東海に求めた。

 このために、静岡県はトンネル工学の専門家、安井成豊・施工技術総合研究所部長を招請した。ところが、会議では安井氏の存在はほとんど無視されてしまった。安井氏が発言を続けようとしても、さえぎられてしまう場面さえあったのだ。

 それよりも何よりも、会議が始まるや否や、突然、県の事務方が『トンネル湧水の処理等における静岡県等の疑問・懸念事項』という一枚紙を出席者全員に配った。

 「9月13日の意見交換会において、JR東海がトンネル工事中の表流水は減少しないといった内容の説明をしていましたが、私たちが問題にしているのは、トンネル近傍河川の表流水だけでなく、地下水を含めた大井川水系全体の少量です」と記されていた。何だ、これとの印象を持った。せっかくの会議をぶち壊すのが目的以外の何ものでもない。

 会議後の囲み取材で、難波氏は「JR東海はまともに対話する資質があるのか問いたい」などと批判のボルテージを上げた。県作成の一枚紙「地下水を含めた大井川水系全体の少量という水環境問題」の認識をJR東海は共有していなかった。実際には、認識を共有する必要性は乏しいはずなのだが、県は矛先を変えて、JR東海を批判した。

 いま考えれば、すべて難波氏の戦略だったのだろう。

 県専門部会の位置づけとは何かを知る上では、2019年8、9、10月の会議をじっくりと検証したほうがいい。専門部会委員の”乱暴な発言”がはっきりとわかる。

 熱海土砂災害「崩壊メカニズム」を説明するという目的で、2021年7月7、8、9、13、14、15日に連続で行われた難波氏の記者会見を検証することにも通じる。難波会見に対する県政記者たちの批判は大きいからだ。

 まあ、それでも、収穫なのは、難波氏による「誤り」「不適切」の塩坂批判を取り消すことはできないことだ。これから、リニア会議での塩坂発言の「誤り」「不適切」をちゃんと把握した上で、国交省は県の利害関係人である塩坂氏の県専門部会員辞任を求める動きにつなげたほうがいい。

 そうしなければ、国の有識者会議で、沖大幹東大教授ら専門家が丁寧に議論して、中間報告にまとめる結論でさえ、県の専門家?による、”珍妙”ないちゃもんですべてこなごなにされてしまう可能性が高いのだ。

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