ニュースの真相

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リニア騒動の真相49「科学者たちの無責任」?

「データ不足」指摘が繰り返される  7月31日、静岡県庁で開かれた県中央新幹線環境保全連絡会議「地質構造・水資源専門部会」「生物多様性専門部会」合同会議で、第4回有識者会議(16日、国交省で開催)に提出されたJR東海の新資料などに対する各委員の疑問や意見を聞いていて、デジャビュ(既視感)ではないが、同じ場面を見ているような錯覚に襲われた。  今回、蔵治光一郎・東京大学大学院教授(森林水文学)が新たにウェブ参加、表流水、地下水の水源となる降水量について、JR東海の取り扱い方が許容範囲を超えているとして、「データ不足」を指摘した。過去の県専門部会でも、「データ不足」指摘がJR東海側に雨霰(あられ)のように降り注いでいた。蔵治教授同様に、別の専門家が加われば、その研究分野の知見からJR東海の資料は十分ではなくなり、新たなデータを求めるのが必然となる。同じ分野の科学者でも専門範囲は細分化され、その専門分野を追求すれば別の新たな疑問が生まれる。科学の追求は際限がない。  「リニア騒動の真相49」のタイトルを『科学者たちの無責任?』としたのは、合同会議に出席している科学者たちが「無責任」だと言っているのではない。ある委員の「リニア工事によって動植物は絶滅する」とびっくりするような発言を聞いていて、ずいぶん昔に書いた月刊文藝春秋『東海地震 科学者たちの無責任』(2001年10月号)の記事を思い出したからである。当時といまがそれほど違っているわけではない。  「東海地震」を知らない人はいないはずだったが、いつの間にか、東海地震は「南海トラフ地震」に吸収され、いまや公文書から「東海地震」の名称が消えた。若い人たちの間では、東海地震と言っても分からない人がいる。リニア南アルプストンネル建設地(静岡、長野、山梨約25㌔)が糸魚川静岡構造線、中央構造線が通る”世界最大級の断層地帯”にあるだけに、「水環境問題」「自然環境問題」だけでなく、リニアトンネル建設が活断層を刺激することで、大地震を誘発する恐れを指摘する声さえある。また、東海地震説の根拠となった、3百年以上前の宝永東海地震では、安倍川源流部の大谷崩など南アルプス地域の大崩壊をもたらした。もし、南海トラフ地震が起きれば、新たな大崩壊を誘発し、リニアそのものにも影響があることも否定はできない。地震と崩れは日本列島の宿命である。  『科学者たちの無責任』を書いたのは2001年9月。2021年は、2020東京オリンピック開催予定であり、ちょうど20年目を迎える。またぞろ、最近、大地震発生の”臭い”が報道されている。なぜ、当時、『科学者たちの無責任』と批判したのか? 「東海地震」説は否定されたのか?  2001年4月3日深夜、静岡市で震度5強を記録するM(マグニチュード)5・1の地震が発生した。その後、M4以上の地震が4回続いたため、気象庁は「東海地震とは無関係」の見解を示し、東海地震の兆候を否定した。  1854年11月4日、M8・4の安政東海地震が東海沖で発生、翌日には、南海沖でも同じM8・4の巨大地震が起きた。東海地震はプレートのひずみにたまったエネルギーが100年から150年の周期で跳ね上がるという「プレートテクトニクス理論」が根拠とされた。これまでの東海地震の間隔は、107年、102年、147年ごとに起こり、2001年は安政東海地震からちょうど147年目を迎えていた。1976年の東海地震説発表から25年も経過、いつ起きてもおかしくないとされた巨大地震への不安は高まっていた。  静岡県を中心に地震防災対策強化地域とされ、静岡県内では海底地震計など367カ所の地震観測体制が敷かれ、巨額な対策費用が投じられた。観測データに異常が見られると、気象庁は科学者による「判定会」を招集、内閣総理大臣を通じて警戒宣言が出される段取りだった。「判定会」模擬訓練は毎年9月1日の防災の日に大々的に報道されたが、実際の「判定会」が招集されることはなかった。  2001年9月当時、学会や研究会で東海地震の発生について、数多くの科学者が具体的な予測を発表していた。「2001年11月頃」(富山大学K教授)、「2002年暮れから2004年」(防災科学技術研究所M室長)、「2004・3年±0・8年」(東大大学院I助教授)などであり、東海地震説を唱えた石橋克彦氏は相模トラフによる小田原地震が起きたあと、東海地震発生のシナリオを主張していた。ご存じのように、いまに至っても東海地震の発生はない。  1905年東大地震学教室の今村明恒・助教授が、東京は50年以内に大地震に襲われると予測、早期に地震対策を取ることを主張した。その18年後に関東大震災が発生、死者約10万人という史上最悪の災害となった。「プレートテクトニクス理論」が確立されていなかった1928年、今村氏は、過去の地震活動を基に将来の地震活動もほぼ同じ場所で、ほぼ同じ周期で起きるとして、東海・南海の大地震活動を予測した。現在の南海トラフ地震説は今村氏の研究が出発点にある。  最近の報道は、南海トラフ地震の発生ではなく、関東大地震の震源となった相模トラフ地震が近いうちに起きるのではと騒がれている。死者約10万人という巨大地震が近いうちに繰り返されるのか? 原因不明の「異臭」が続く三浦半島地域  6月4日、三浦半島の横須賀市などで「ゴムが焼けるようなにおいがする」などの異臭騒ぎが起こり、約5百件もの苦情が消防署などに寄せられた。警察、消防で原因を調べたが、現在も不明のままで、7月17日にも同じような異臭騒ぎが起きた。この異臭騒ぎと相模トラフを結び付けたのは、立命館大学の高橋学教授(災害史、環境考古学)。高橋教授は「三浦半島周辺は活断層が非常に多く、活断層が動いたことで『異臭波』がつくられた可能性がある」と指摘、1995年の阪神淡路大震災でも少なくとも1カ月前から同様の異臭が複数回確認されたという。  2011年3月の東日本大震災以降、日本列島では地震が頻発、活動期に入っている。このため、今回の異臭騒ぎが大地震の前兆だとする科学者も高橋教授だけではない。ただし、2001年『科学者たちの無責任』で批判したように、もし、大地震を予測するのであれば、科学者はその良心に従って、即刻、2021東京オリンピックの中止を求めるべきである。世界中からアスリート、観光客が集まっている最中に大地震に見舞われれば、コロナ禍どころではなくなる。  2001年当時、5百万人以上の人出を予想した「しずおか国際園芸博覧会」が浜名湖の広大な埋め立て地で開催準備が進んでいた。大地震が起きれば、浜名湖周辺を大津波が襲い、園芸博を訪れるほとんどの人は亡くなる可能性が高かった。もし、科学者たちが自信を持って東海地震予測をするならば、園芸博中止を求めるべきだと書いた。  結局、科学者たちの予測はすべて外れた。つまり、予測には科学的根拠が欠けていただようだ。さて、リニア建設に対する科学者たちの予測はどれだけ信頼できるのか? 県との「対話」はいつまでも終わらない?  県は7月16日JR東海提出の水収支解析についての疑問点を詳細にまとめ、専門部会委員に対して、「事務局」提案をした。  1、「水収支解析によれば、中下流域の地下水は変化しない」という説明は適切ではない。2、トンネル湧水量の推定精度は検証が必要である。3、トンネル掘削による付近の河川流量への影響について、より詳細なデータ開示を求める。4、地下水位の大幅低下による生態系への影響を評価するためのデータを開示を求める、としている。  この提案は、16日の第4回有識者会議で、水文学の専門家らが「大井川の渇水時に取水制限したとしても中下流域の地下水は減っていない」「大井川下流域扇状地の地下水はそのほとんどは降水で涵養されている」などとして、JR東海提出のデータを基に、「中下流域の地下水への影響はない」という方向が会議でも大勢を占めたことに対するアンチテーゼ(反対の主張)と言える。  JR東海は環境影響評価(環境アセスメント)の手続きを行ってきた。環境アセスメントは出来るだけ影響を小さくするための手続きであり、一般的にはその手続きは通り一遍であり、すべてを網羅することはできない。  県は、「今後の進め方」として国の有識者会議と県の専門部会との関係を図で示した。有識者会議は「方向性」を提示し、国交省はJR東海に「方向性」を指導する。その指導を受けたJR東海はあらためて県専門部会で説明を行い、すべての疑問が解消された上で、環境アセス調査結果を踏まえた具体的な「施工計画」「環境保全の計画」「発生土置き場の管理計画」を提出する。続いて、県自然環境保全条例に基づく協定を結び、さらに、河川法に基づき県知事がトンネル工事を許可していくという段取りである。事務局「提案」を見れば分かるが、県リニア会議専門部会は国の有識者会議の「方向性」さえ容認していない。国交省はこの「方向性」でJR東海を指導できないわけだ。これでは、生物多様性の議論までにどれほどの時間が掛かるのか、全く見えてこない。  7月26日付『リニア騒動の真相48「ドーダの人、川勝平太」』を紹介した。川勝知事が「ドーダ、参ったか!」と、JR東海、国交省、自民党議員団らを前に静岡県の主張を堂々とするためには、中下流域市町の団結だけではなく、県専門部会の科学的な主張は欠かせない。  国有識者会議の科学者は解決のための「方向性」の議論を求められているが、県専門部会の目的はそうではないから、科学者たちの疑問点はさらに増えていくだろう。国の有識者会議の設置目的、県専門部会との関係が、県の作成した図式の通りであるならば、たとえ、リニア開業を2030年に延長したとしても、その実現が難しいことくらい関係者ならば誰でも分かるだろう。この議論は1年や2年で終わるはずもないからだ。  昨年10月の台風19号、ことし7月の豪雨の影響で準備工事さえ完全にストップしている。それにコロナ禍が追い打ちを掛け、リニアの必要性に疑問を投げ掛ける意見も多くなっている。そこに、巨大地震でも起きれば、東京オリンピックだけでなく、リニアにも決定的な打撃となる。「東海地震」同様に「科学者たちの無責任」を祈ったほうがいいのかどうか。

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リニア騒動の真相48『ドーダの人、川勝平太』

『私はリニア大推進論者だ』を理解するには?  今回の標題『ドーダの人』を少しだけ説明する。『ドーダ、ドーダ、わたしのいま言っていることはすごいことだ。ドーダ、参ったか!』。22日にウェブで開かれた自民党リニア特別委員会で、静岡県の川勝平太知事が、20年以上も前、小渕内閣時代、リニア計画に携わったキャリアを詳しく説明した上で、『私は一貫してリニア大推進論者だ』と大見えを切ったのだ。6月26日の金子慎JR東海社長、今月10日の国交省の藤田耕三事務次官との「対談」内容を見れば、川勝知事が『リニア大推進論者』と額面通りに受け取る人はいないだろう。「リニアには賛成」を何度も聞いたが、『リニア大推進論者』は初めてだった。これに対して、自民の国会議員たち誰ひとり、面と向かって「嘘つき」とも何とも言えなかった。つまり、川勝『ドーダすごいだろう』を論破できるはずもなく、内心では「参ってしまった」のかもしれない。  『ドーダ』を世の中に知らしめたのは、漫画家、東海林さだおとフランス文学者の鹿島茂である。2人のエッセーのファンであれば、『ドーダ』になじみがあるかもしれないが、一般的にはあまり知られていない。東海林が『もっとコロッケな日本語を』(文春文庫)で、『流行作家が銀座のクラブに行って、疲れ切った風に「おれ寝ていないんだ」とひと言、口にする。それが「ドーダすごいだろう」であり、その意味は、「おれ様は寝る時間もないくらいの超売れっ子だ。当然、おカネをいっぱい持っている」。「ドーダ」オーラを理解した上で、「大歓待しろ」となる。また、「ドーダ」自慢が仕事の源にもなる』などと紹介した。  東海林さだおの使った『ドーダ』を理論的に完成させたのが、鹿島茂。『ドーダの人、小林秀雄』『ドーダの人、森鴎外』(いずれも朝日新聞社出版)、『ドーダの人、西郷隆盛』(中公文庫)などで歴史上の有名人が、どのような『ドーダ』心を持ち、その仕事を成功に導いたのかを分析した。鹿島は『ドーダ』の1点を抑えておけば、コミュニケーションや表現行為のあらゆる意味は容易に解けてしまうと説明。『ドーダ』はまさに万能の心理分析のキーワードである。  『ドーダの人、小林秀雄』の副題は「わからなさの理由を求めて」。『ドーダ』という万能の心理分析を使えば、そのわからなさが少しだけ見えてくるという。  21日、川勝知事はJR東海が工事を求めている3つのヤード(西俣、千石、椹島の宿舎を備えた作業場)へ続く静岡市東俣林道が7月豪雨による通行止めとなった被災現場を視察した。その翌日には自民党のリニア特別委員会にウェブ参加して、国会議員からの事情聴取にのぞんだ。  21日の現地視察の囲み取材を聞けば、22日自民党会合後の川勝発言『リニア大推進論者だ』があまりにおかしいことが分かる。川勝知事の理解不能な表現行為を万能の心理分析『ドーダ』で見ていきたい。  7月豪雨災害の被災地に立って”宣言”した?  昨年10月の台風19号の被災によって、東俣林道沼平ゲートから約3・8㌔、4・1㌔の地点で林道が2カ所、崩れ落ちてしまい、大井川河原に約1・4㌔区間の河川内仮設道路が設けられた。金子社長との面会をする前、6月11日川勝知事は仮設道路から崩れ落ちた林道を視察した。リニア工事現場がいかに脆弱な地盤の場所かを記者らに説明した。それから1カ月もたたないうちに、河川内仮設道路が7月豪雨によって、冠水、流されてしまった。  7月豪雨の被害は、流された仮設道路だけでなく、そこから1時間以上も進んだ林道の一部が崩落、その被害が最も大きかった(※詳しくは『リニア騒動の真相47「解決」するのは誰か?』で紹介)。21日の知事視察は河川内仮設道路が流出した地点まででしか行くことはできない。当然、静岡市HPに写真がUPされているから、被災状況は十分に把握できた。ところが、急きょ、川勝知事は現地視察を決めたのだ。22日の自民党国会議員の聴取にそなえ、静岡県がヤード整備を認めない云々を問うのではなく、自然災害によって、JR東海の作業員すべてが避難して、工事どころの話ではないことを現地から強く訴えるのが目的だと思われた。  2027年リニア開業のためには6月中のヤード工事を求めた金子社長、その交渉が不調に終わると、今月10日、藤田次官は7月中にヤード工事を認めるよう国交省提案をした。国の事務方トップ提案を蹴った川勝知事は、被災現場で「JR東海の作業員すべてがヘリで救出された。現場を見てもらえれば工事ができるかどうかは一目瞭然。そんな状況の中でヤード工事を認めろは現実離れした机上の空論」などと訴えた。ここまではシナリオ通りだった。これで目的は十分果たしたと考えた。  ところが違っていた。この日は、許可の必要な林道視察への集合場所となった白樺荘で、川勝知事は県リニア環境保全連絡会議地質構造・水資源専門部会の森下祐一部会長(静岡大客員教授)と合流、昼食をともにした。地元大西屋のやまめのパピヨットや野生鹿肉の生姜焼きなど井川産の食材による特製弁当に舌鼓を打ちながら、森下部会長も参加する国の有識者会議の話題で盛り上がったようだ。  昼食後、河川内仮設道路が流された被災現場の前に立った川勝知事は突然、「リニアトンネル周辺の地下水位は3百m以上も低下する。有識者会議で明らかになった重大事であるから、南アルプスで工事をしてはならない」と宣言した。自然災害による工事用道路の被災状況ではなく、この日の現地確認とは全く無関係の話である。 生物多様性問題でリニア工事「ノー」とは?  「地下水位が3百m以上も低下する?」  知事の”爆弾発言”に一瞬、その意味を理解するのが不可能だった。16日に開かれた第4回有識者会議の議論は、中下流域の地下水への影響について、ほとんどの委員は「影響はほとんどない」とJR東海の主張に沿った合意が図られた。リニアトンネル周辺の地下水位の低下については、委員らの議論にはなかった。そもそも「地下水位の低下」は県生物多様性部会での議論であり、JR東海は、静岡市の南アルプス環境調査による解析結果を提示していた。地下水位の低下によって、沢枯れが起こり、水生生物などに大きな影響を与える可能性が指摘され、JR東海は専門委員の提言などを受けて、「代償措置」を行うなどという回答のまま、生物多様性専門部会は再開されていない。当時は地下水位50mのはずだった。  それが「3百mもの低下」となれば、トンネル建設地周辺の水生生物への影響は甚大である。しかし、だからと言って、「南アルプスの工事はしてはならない」という結論では、『リニア反対』となってしまうだろう。どんなトンネル工事でも、地下水位の低下を避けることはできない。だから、事業者はさまざまな方策を取るのがふつうであり、JR東海もそのような主張を続けてきた。「62万人の生命の問題」という中下流域の「利水」ではなく、南アルプスエコパークの「生物多様性」が失われるかどうかの問題である。南アルプスエコパークを管理する静岡市と連携して、対応しなければならない。そのような疑問をそのまま知事に投げ掛けたが、「生物多様性」問題で肝心の静岡市と連携するという答えは知事の頭にないようだ。  生物多様性についての議論は有識者会議でも行われる。水環境問題の方向性が決まったあと、メンバーが入れ替わるはずだ。その上で議論が始まるだろうが、川勝知事は「南アルプスのトンネル工事を行うべきではない」と発言した。翌日の毎日新聞は「生態系に大きな影響」という見出しで知事発言を大きく取り扱った。この記事を読めば、『リニア反対』と考えるのがふつうである。ところが、単に川勝『ドーダ』発言と考えれば、『リニア反対』ではない。翌日の『リニア大推進論者』発言と同様である。  視察後、第4回有識者会議資料を確認すると、JR東海が実施した水収支解析の中に、「地下水位(計算上)予測値の低下量」があり、「トンネル周辺の山の尾根部であり、局所的に300m以上低下する結果となっている」という初めての予測値を示していた。静岡市の予測値と違うのは、解析モデルが違うためらしいが、「局所」とはどの辺りを指し、どのような影響が考えられるか、JR東海から説明を受けなければ、この低下量がどのような意味を持つのか理解できない。  21日の知事”爆弾発言”「3百m以上の地下水位低下だから工事をしてはならない」が、翌日の自民党リニア特別委員会に提起されるかどうか、『リニア反対』派から大きな注目を集めてしまった。 リニア反対派も大喜びの知事”爆弾発言”  21日の現地視察では、県のバスがJR静岡駅に用意された。12人乗りのマイクロバスには、県職員2人、メディア4人が乗り込んだ。東京からフリーのY記者、名古屋から赤旗記者(もう1人は不知)の2人は『リニア反対』派である。赤旗記者の大きなトランクとパソコン、カメラなどの入った2つの手荷物だけでも2人掛けの座席を占領した。大きなトランクにはヘルメット、長靴などの重装備が入っているとのこと、『リニア反対』派にとって、知事視察がいかに重要な取材かが分かるのだ。  初めての知事視察同行で、”爆弾発言”も飛び出したから、『リニア反対』派には大収穫だったかもしれない。Y記者は知事視察だけでなく、一泊して22日の知事会見にも出席した。「コロナによる社会状況の変化でリニアの必要性が過去とは違う」「3百m以上の地下水位低下によって生態系に大影響を及ぼす。南アルプスでの工事を行うべきではない」の2点を自民会合で発言したかどうかストレートに投げ掛けた。当然、『リニア大推進論者』の『ドーダ』発言をした川勝知事が、「コロナ後の変化」や「3百mの地下水位低下」など余分な話をするはずもなく、Y記者に「鋭い良い質問だ」とお褒め『ドーダ』で返した。  「国の有識者会議の結論に従いたい」という川勝知事発言について、自民リニア特別委員会委員長の古谷圭司議員(岐阜5区選出)は、「知事発言の意義は非常に大きい」と高く評価したが、単に川勝『ドーダ』を理解していなかっただけである。すべては川勝『ドーダ』の世界である。  川勝『ドーダ』のもう一つの特徴は『環南アルプスエメラルドネックレス構想』、『文化力の拠点』など新たなネーミングで周囲を煙に巻くことである。また『万機公論に決すべし』は大体、どんなときでも使っている。『ドーダ』を使い、川勝知事はリニア問題をどのような解決に導くのか?川勝『ドーダ』はメディア戦略も兼ねるが、果たして、仕事の成功に結び付くのか、いまのところ、全く見えない。 ※タイトル写真は、川勝『ドーダ』が炸裂した東俣林道下の河川内道路被災現場での知事会見

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リニア騒動の真相47「解決」図るのは誰か?

「地下水に影響なし」ー地元は認めるか?  JR東海はこれまで、県環境保全連絡会議地質構造・水資源専門部会で「地下約4百㍍に建設される南アルプストンネル(約8・9キロ)は、約100キロも離れた中下流域の地下水に影響を及ぼす恐れはない」と何度も説明してきた。大規模な土木事業は数多くあるが、100キロも離れた地下水への影響が問題になったことは一度もない。それでも、JR東海の主張に対して、県専門部会では反論、紛糾し、議論は進まなかった。  本サイトでも、3月22日付リニア騒動の真相35『「ブラックスワン」が起きる』、6月7日付リニア騒動の真相41『「県益」考えた対応を!』などで、客観的に見れば、JR東海の主張が正しいことを繰り返し伝えた。約100キロ離れた河川上流部の水の変化が中下流域の地下水にどのような影響を及ぼすのかは、科学的な常識を超えた疑問であり、水循環に携わる水文学専門家の研究対象にはならない。  第4回有識者会議が16日、国交省で開かれ、沖大幹東大教授(水文学)、徳永朋祥東大教授(地下水学)、大東憲二大同大教授(環境地盤工学)から「中下流域の地下水影響はほとんどない」などの意見が出された。「大井川の渇水時に取水制限したとしても中下流域の地下水は減っていない」「大井川下流域扇状地の地下水はそのほとんどは降水で涵養されている」など、JR東海提出のデータを科学者の知見が裏付け、会議でも大勢を占めた。県専門部会委員の丸井敦尚・産業技術総合研究所プロジェクトリーダー(地下水学)も今回はJR東海の主張を認めたが、森下祐一・静大客員教授(地球環境科学)は、トンネル掘削による上流域と中下流域の河川表流水と地下水の関係性を示す指標データを出すようにあらためて求めた。JR東海は指標データの分析、調査を行い、いずれ会議に提出する、という。これで、有識者会議の結論「中下流域の地下水への影響はない」が合意され、JR東海としてはこれまでの主張が科学的に担保されることでひと安心だろう。  ただし、科学的な議論がどこまで尽くされたとしても、『ブラックスワン』(東日本大震災による福島第一原発事故など自然災害で極端に確率が低い予想外のことが起こり、それが大きな波及効果をもたらす現象)が起きる可能性まで否定できない。もし万が一、予期せぬ何かが起きたらどうなのか?それが流域10市町の不安でもあり、だからこそ、県は有識者会議がまとめる結論をすんなりとは認めないだろう。 「ヤード工事認めない」見解を市町も共有  16日の有識者会議後、福岡捷二座長(中央大学研究開発機構教授)、江口秀二審議官の記者会見で、JR東海が求めている「ヤード(椹島、千石、西俣の宿舎を含む作業場)工事」について記者の質問が続いた。「ヤード工事」については、県と国の間で一応の結論が出ている。もし、疑問があるとしたら、自然環境保全条例の運用、解釈を変えた県に質問するしかない。国の”力”で県の姿勢を変えることができるかのような勘違いが見られ、「ヤード工事」の是非を有識者会議のテーマにしたらどうかなど突飛な意見が出ていた。  6月26日金子慎JR東海社長の「対談」、7月10日国交省の藤田耕三事務次官の「対談」とも、川勝知事に「ヤード工事」を認めてもらうのが目的だった。条例を根拠に「ヤード工事」を認めないという県に対して、JR東海は条例の根拠を2度、照会、結局、県の回答に納得できないJR東海に代わって、国交省事務方トップの藤田次官が知事との”談判”にのぞんだ。「流域市町の理解が得られない」など川勝知事が拒否すると、藤田次官は「直接、流域市町に説明したい」と切り返した。国が流域市町を説得、県の姿勢を変える取り組みをしたいかのような発言に聞こえた。  県は17日、流域10市町長すべてが国の個別訪問を受け入れる意向を発表した。同時に、「ヤード工事」に関する国の提案に対して、提案を退けた「県の見解」を県中央新幹線対策本部長(難波喬司副知事)名でまとめた。「具体的にどういう懸念があるのか、未来永劫変えられないのか」など藤田次官の疑問について、詳細に回答している。県条例の新たな運用、解釈について、藤田次官自身が自治体の裁量として認めているのだから、県の考えがそのまま10市町の共有する「見解」になるのだろう。  今後、江口審議官が各市町を訪問しても、「ヤード整備」に対する市町の姿勢を変えることはできない。結果的に「中下流域の地下水への影響はほとんどない」という有識者会議での”中間結果”を説明して、江口審議官は水環境問題への理解を求めるくらいが関の山だろう。  藤田次官との「対談」後、14日の記者会見で川勝知事は「事務次官に頭を下げる必要はない。ヤード整備についての話は2分で済んだが、30分以上掛け、条例の適用変更について述べた。(次官の姿勢は)変更しろという命令。一種独特の体質を感じた」など国に反発する厳しい意見を述べ、「(国の主導する)有識者会議での解決は難しい」と県の姿勢を明確に示した。  「リニア問題解決を川勝知事に一任」で10市町長は一致しているから、「水問題の重要性をJR東海は理解すべき」「利水者の声をJR東海に伝えてほしい」など前回同様の意見が各首長から出されるだろう。 「被災現場」視察する知事の狙いは?  川勝知事は21日、七月豪雨で大きな被害を受けた東俣林道を視察する。視察と言っても、スケジュールでは沼平ゲートから約3・8キロの地点まで行ったところで、昨年10月の台風19号被害で一部欠損、崩落した約1・4キロ区間の「東俣林道河川内道路」入り口が目的地。今回の豪雨で「河川内道路」は水没したままであり、その先に進むことはできないからだ。そこで午後12時50分から10分間、被災状況の説明を受ける予定。   最も大きな被害に遭ったのは、ゲートから約18・2キロ先の崩落した道路(※タイトル写真=静岡市提供)であり、市担当者が現地調査に向かうのは、「河川内道路」の水が引き、使えるようになってからで、7月いっぱいは無理だろう。現地調査を終えたあと、災害復旧計画を立て、予算査定などに入り、実際の工事に入るまでに4カ月以上掛かる可能性がある。知事の視察現場と違い、今回の崩落道路に「河川内道路」はつくれない。応急工事でどこまで通行可能となるのか、JR東海にとっては厳しい状態が続く。  そんな状態の中で、知事視察の狙いはどこにあるのか?  金子社長は「ヤード整備」について、6月中に認めてもらえなければ、2027年リニア開業は困難という見解を示した。その後、県庁を訪れた藤田次官は7月中に認めてもらえるよう要請した。しかし、7月豪雨の影響で林道がずたずたとなり、復旧の見通しもつかない中で、「ヤード工事をやらせてほしいは机上の空論に等しい」(川勝知事)。南アルプスの極めて過酷な工事現場を多くの人に知ってもらうのによい機会なのだろう。県の対応に批判的な自民党超電導リニア特別委員会、中部経済連合会宛に今回の視察案内を送った。  第4回有識者会議でJR東海は大井川流域の基本的理解を深める目的で「大井川流域の現状(素案)」を委員に示した。江口審議官は「大井川の現況が一体どうなっているのか、非常にわかりやすい資料」と述べた。ただ、文字や写真で現況を確認するのと実際の大井川上流部の自然の過酷さを肌で感じるのとは「大違い」である。  今回の有識者会議はウエブではなく、初めて委員全員が一堂に会して、議論した。福岡座長は「顔と顔を突き合わせて、意見交換することでお互いに理解が深まった」などと話した。その「違い」と似ているだろう。 昨年より「糸のもつれ」はひどくなった  昨年10月の台風19号の被害、今回の7月豪雨による被害などを経験、昨年からことしに掛けてどれだけリニア工事が進捗したのか、気になるところだ。ちょうど昨年のいまごろ、「リニア2027年開業に暗雲 工事認めない静岡県の狙い」(週刊東洋経済7月6日号)、「リニア中央新幹線トンネル工事にストップをかける静岡県」(週刊新潮7月18日号)、「リニア建設を阻む静岡県ー川勝知事の『禅問答』がもたらす、これだけの弊害」(ITmediaビジネス、7月23日)など、週刊誌、ネットメディアで南アルプストンネル着工に「待った」を掛ける川勝知事への批判が続いた。  週刊東洋経済7月6日号(1日発行)は、『「JR東海に媚びを売る必要はない」「(工事の遅れを)静岡県のせいにするのは失礼千万だ」―。6月11日に行われた静岡県の定例会見で、川勝平太知事はJR東海への厳しい批判を繰り返した』で始まる。出だしを読んだけでも、1年前の記事とは思えないほど、いま現在の状況と似ている。  『リニアの建設工事に合意する見返りとして、JR東海に空港の新駅建設をのませようとしていると考えれば、川勝知事の発言にも合点がいく』『沿線の静岡市や浜松市は(「ひかり」の)停車本数の増加を強く訴えており、県としては、こうした声を無視できない』など、静岡県が見返りを求めているのだと指摘した。果たしてそうなのかどうかは分からないが、県民の多くがJR東海に不満を持っていることは確かだ。  『今の膠着状態が続くと、JR東海が進めるリニアプロジェクトの2027年開業は難しくなる。(中略)最終的にはお互いが歩み寄り、決着を図るしかない。しかし、その糸口はまだ見えていない』と締め括っていた。  『お互いに歩み寄る』どころか、JR東海が国を前面に立てて、自分の主張をすれば、県は新たな問題を提起して、ハードルを高くしてくる。「中下流域の地下水の影響」議論が浮上したのは、昨年10月静岡県が問題提起したからだ。「ヤード整備」について認めないという姿勢も、県が最近、条例の運用、解釈を変えた。つまり、「解決の糸口」どころか、「糸のもつれ」はひどくなる一方である。被災現場の知事視察も、別の狙いがあるのかもしれない。  県が何らかの異論を唱えるパターンが繰り返され、解決の糸口は全く見えない。解決を図りたいならば、JR東海は歩み寄る姿勢を見せなければならない。「糸のもつれ」をこれ以上、ひどくしては、手がつけられなくなる。1年前の「暗雲」どころかいまや、「豪雨」に見舞われ、リニアの必要性まで問われる。1年後の記事はどうなっているのか?

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リニア騒動の真相46国交省「情報戦」に完敗

昨年と同じパターンの藤田事務次官訪問  10日午後5時2分前、静岡県庁5階の知事室前に国交省の藤田耕三事務次官、水嶋智鉄道局長らが到着した。昨年10月24日以来、藤田次官は川勝平太知事と2度目の対談にのぞむために来静した。定刻で対談を始めるのにピッタリの到着だった。その後の「対談」の中身とともに、藤田次官らのあまりにも律儀な到着時間などを見ていて、まてよ、昨年と全く同じパターンではないか、と気がついた。  まず1点目は「官邸の指示」である。昨年10月、藤田次官訪問の数日前に葛西敬之JR東海名誉会長は安倍晋三首相と面会、「リニア工事の静岡県での早期着工に向けて政府の積極的な関与」などを求めたという。その要請にこたえ、事務方トップの藤田次官が乗り出したというわけだ。結局、藤田次官の積極的な関与は奏効しなかったが、今回も1週間前、葛西会長は東京・赤坂で安倍首相と約2時間、会食、そこで静岡県のリニア問題がテーマになったのは間違いない。県自然環境保全条例を根拠にストップを掛けるヤード(宿舎を含む作業場)工事について、藤田次官が川勝知事に”談判”して、何とかしろというのが官邸の指示ではなかったか。  6月26日、金子慎JR東海社長が川勝知事に面会して、ヤード工事についてトンネル本体工事と切り離して認めるよう”懇願”した。川勝知事の県条例、保全協定の説明が言葉足らずで、金子社長に一縷(る)の期待を抱かせ、JR東海はあらためて文書で照会した。この照会について難波喬司副知事が3日、県条例の解釈、運用でヤード整備はトンネル本体の一部であると回答した。JR東海は昨年5月県担当者から受けた説明と違うため納得できないなど、その夜、再度確認を求める文書を提出した。  葛西会長は静岡県の姿勢が変わらないと見て、安倍首相に応援を求めたのだろう。まずは、担当の国交省が対応するのが筋であり、藤田次官の再度の出番となった。しかし、藤田次官の”談判”も金子社長の”懇願”同様に川勝知事に軽くいなされ、静岡県の厚い壁に跳ね返されてしまった。  7月中の「次官退任」の話題が出てしまえば、”談判”も迫力に欠ける。今回も官邸の期待にこたえられなかった。 「要らぬ手間」ばかり増やす国交省  昨年の同じパターン2点目は、国交省は「要らぬ手間を増やしたこと」である。  昨年10月の訪問で、膠着状態の打開を目指した藤田次官は、国が主導する静岡県、JR東海との「新たな三者協議の場」設立を提案した。この提案を了承する代わりに、川勝知事は、口頭で「国は静岡県の中間意見書、JR東海からの回答に対する見解を文書で示してほしい」と要請。このあと、10月31日の三者会議で協議されるはずだった国交省作成の合意文書案が、前日夜、地元テレビにスクープされた。31日の会議は公文書管理で紛糾、国交省から県担当者が厳しく批判されたことで知事は硬化してしまう。  川勝知事は12月末、国交省主導の「三者協議の場」に「環境省など関係省庁すべての参画」と「静岡県とJR東海との対話の内容について評価」の2点を文書で要請した。その結果、国交省はことし1月、静岡県の2つの要請を拒否するかわりに、水環境などの専門家による「新たな有識者会議」設置を提案した。その有識者会議設立でもごたごたは続いたが、その後6月までにようやく「有識者会議」は3度開催された。議論は始まったばかりで、結論を得るまでに遠い道のりだけが見える。また、次官提案の「三者協議の場」がどうなってしまったのか明らかでない。  今回のヤード整備について、国交省提案は「JR東海はトンネル本体工事に着手しないので県は認めてほしい」だった。新たな内容を全く含んでおらず、「ヤード工事をさせてほしい」金子社長の”懇願”を国交省が整理、担保しただけのものだった。「流域市町の理解が得られない」など川勝知事が提案を拒否すると、藤田次官は「直接、流域市町に説明したい」などと述べた。また「要らぬ手間」が増えただけである。  昨年の藤田次官訪問のあと、江口秀二審議官が大井川流域の10市町長と静岡市長に面会して、今後、リニア問題に国が関与していくことで理解を求めた。川勝知事は江口審議官の面会について「地元の理解と協力を確実に得ることを国が初めて実践している」など褒め称えた。この面会ではっきりとしたのは、「リニア問題解決を川勝知事に一任」だった。今後、ヤード整備について国が各市町長に理解を求めたとしても、当然、結果は同じだろう。また同じことを繰り返すのか?  昨年10月の次官訪問後、一見、国交省はさまざまな取り組みを行い、静岡県のリニア問題解決に苦労しているように見えるが、あまりに無駄が多く、膠着状態打開につながっていない。 「対談」に川勝知事は十分な準備をした  昨年の訪問と同じパターン3点目は「対談に対して全く準備をしていない」ことである。  昨年10月24日の藤田次官訪問の際、静岡県は10月12日から13日の台風19号による東俣林道や西俣ヤードの大きな被害について、写真等で詳しく説明した。現地がいかに困難な場所か藤田次官らはうなづくしかなかった。今回の訪問前、6月30日から続く大雨で被害が出ていた。知事の机には付箋のついた新聞が積まれ、一番上に「豪雨で作業用道路崩落」の大見出しのついた10日付静岡新聞朝刊があった。川勝知事は「崩土や冠水など4カ所の被害を確認し、そのうち1カ所は路肩が崩落して復旧に数カ月間かかる」「千石ヤードの作業員用宿舎の水道施設が使えない」を読み上げて、その被害の深刻さを説明した。  静岡市が10日、被害状況を発表した。大雨が続き、担当者が現地調査できるのは来週の13日以降であり、静岡新聞記事の「路肩が崩落して復旧に数カ月かかる」には、「路肩欠損により幅員減少、規模及び復旧の見込みは調査ができないため不明」と発表した。まだわからないのだ。今回の大雨ではいまのところ、台風19号のような「路肩崩落」もなく、静岡新聞記事は台風19号被害と今回の大雨をごちゃまぜに書いたようだ。大雨被害が安全確保の観点で最も重要な話題の一つだった。藤田次官は同日午前に金子社長と面会しているのだから、新聞情報以上の詳しい情報を頭に入れて、”談判”にのぞむべきだった。  今回の「対談」で、川勝知事は「県自然環境保全条例では委員会を設けて、専門部会で許可する。条例について金子社長はご存じなかった」などと述べた。知事の勘違いは、金子社長との対談でも同じだったが、藤田次官はこの点についてそのまま聞き流した。県条例では、委員会を設けることも専門部会で許可することもない。  静岡県は最近になって、自然環境保全条例の解釈、運用を変えてしまったから、川勝知事が勘違いする原因となったのだろう。藤田次官は静岡県の解釈、運用に問題なしとしたが、知事の勘違いを追及することで、政治家の知事から何らかの言質を取ることはできたのかもしれない。ヤード整備を認めさせるためにエリート事務官僚ができるのは法的根拠を追及するくらいしかない。金子社長「対談」のとき同様に、知事が勘違い発言をした場合、どのように対応すべきか準備しなかったのだろうか。 「ルート変更」を話題にした意図は?  今回の「対談」で、川勝知事は県議会委員会で「ルート変更」の議論が出たことなどを紹介、「リニアが他の公益を阻害するならば、う回したらどうか?」とまで話した。藤田次官の心中は穏やかではなかっただろう。  6日に開かれた県議会くらし・環境委員会はメンバー変更に伴い、新たに委員となった県議が質問に立ち、「JR東海にルート変更してもらったらどうか」などと述べるなど、これまでリニア問題に全く関心の薄かったことをうかがわせた。昨年9月5日、川勝知事が吉田町で開かれた会合などでJR東海にルート変更をうながすような発言をしたため、20日に開かれた県議会本会議の代表質問で「ルート変更」について知事の姿勢が問われた。川勝知事は「JR東海と対話を続けている最中にルート変更を働き掛ける考えはない」とはっきりと述べている。その後の記者会見でも、「ルート変更」について否定した上で、「ちゃんと議論してほしい、急がば回れ」の意味などとしている。  その他の県議が「金子社長はリニアは新幹線のバイパス機能を持ち、災害リスク上重要だと述べたが、南アルプスは年間4ミリ、10年間で4センチも隆起する非常に危険な地域であり、大問題ではないか」「JR東海は静岡県内で垂直ボーリングを行っておらず、危険な断層の調査が不十分ではないか」などの質問が出ている。  県議たちが正確な情報を得ていないのは、JR東海が情報提供の努力をしていないからなのだろう。3日難波副知事は回答に際して、約1時間半も掛けて詳しい説明を記者たちに行った。同日夜、JR東海からの再質問に対して、県は7日、再回答した。時間を掛けて記者会見を行い、担当理事は「県民に理解できる形で対話を進めることが一番の近道」と述べた。JR東海は、県が昨年5月の説明と違い、今回突然に条例の運用、解釈を変えたという肝となる主張について、単に文書が出されただけである。県が何度も記者会見を行い、詳しく説明するのと大違いである。  「多くの県民に情報を伝える」県議、記者たちがちゃんとJR東海から説明を受けていれば、今回の条例の運用、解釈、ヤード工事の是非の判断も違っていたのかもしれない。  7日の記者会見で浜松商工会議所会頭は「JR東海は具体的な地元貢献策を示さないで、自分たちの都合ばかりを言う」「リニア開業に間に合わないのは(静岡県に)関係ない」などと苦言を呈した。また、12日付毎日新聞社説は「リニア開業延期見通し 計画ありきの姿勢脱皮を」もまさに同じ意見を述べるとともに、藤田次官の知事訪問、提案について拙速な対応と批判した。つまり、「県民に理解できる」提案ではなかったのだ。  対談後の次官会見で、いまだに静岡県が求める有識者会議「全面公開」について記者から質問が出た。国交省の説明がわかりにくいからだろう。それで川勝知事は「約束を守らない」「詭弁を使う」などと批判、その映像を多くの人たちが見て納得してしまう。川勝知事は金子社長の対談でも使った「万機公論に決すべし(国家の政治は世論に従って決定せよ)」を藤田次官にも投げ掛けた。世論を味方につけるために、国交省、JR東海は何をすべきか? ※タイトル写真は、今回の大雨で冠水した赤崩前の東俣林道(東海フォレスト提供)

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リニア騒動の真相45「闘い」は正々堂々とやるべき

難波発言の信ぴょう性を疑う  「昨年6月13日の現地視察によって、(川勝平太)知事は(5㌶以上の静岡県自然環境保全条例に基づく自然環境保全協定締結が必要な)ヤード(宿舎を含む作業基地)工事が本体工事であることを確認した」。静岡県は3日午前、川勝知事、金子社長との対談内容に疑問を抱いたJR東海からの照会に対して、「(椹島、千石、西俣の3)ヤード整備はトンネル本体工事の一部であり、認められない」という回答書を提出した。同日午後、難波喬司副知事は記者会見を行い、昨年6月時点で「JR東海が求めている3ヤードの準備工事はトンネル掘削工事の一部」と川勝知事は認識、今回の対談で唐突に県自然環境保全協定を持ち出したわけではないことを明らかにした。  県担当理事によると、昨年5月31日大井川水利調整協議会が県庁で開かれ、「なし崩しにトンネル工事に入ることがないように釘を刺された」ことで、川勝知事は現地視察でヤード工事の現地を見るのが大きな目的の一つとなったという。  本当にそうだったのか?  昨年の現地視察2日前、6月11日の会見で川勝知事は2011年5月以来、8年ぶり2度目の現地視察について、①現場で安全に工事がなされているのか、②自然生態系に対する破壊が進んでいないか、③JR東海が整備している林道や建築物が将来の観光に生かせるのかの3点を視察の目的に挙げた。  13日現地視察では、椹島ヤード、千石非常口トンネル予定地に続いて、千石ヤードの宿舎建設予定地で囲み取材を行った。その前後で、川勝知事は今回問題になっている沈砂池、濁水処理設備、工事用道路トンネル坑口などの準備工事予定地を見学してはいない。囲み取材を終えるとすぐに、知事一行のみが報道陣とは別に西俣ヤードを視察するため慌てて出発した。千石ヤードでは今回、JR東海が申請する準備工事予定地を川勝知事は現地で確認しなかった。難波発言は額面通りに正しいとは言えない。  その後28日の会見で、川勝知事は現地視察を振り返って強く印象に残った2点を挙げて、①所有者の特種東海が全く手に負えない「赤崩れ」の山地崩壊のすざまじさ、②県公用車がパンクしたことを踏まえ、作業の安全に関わる林道整備の重要性などを詳しく述べた。作業の安全確保に関係して、JR東海による市道閑蔵線トンネル整備の必要性にも言及した。しかし、昨年視察後の会見で、「大きな目的だった」県自然環境保全条例に関わるヤード整備についてひと言も触れなかった。ことし6月11日の知事視察後の囲み取材でも昨年印象に残った①、②に触れたが、県自然環境保全条例について全く触れていない。川勝知事が県条例を口にしたのは金子社長との「対談」が初めてである。  これで果たして、川勝知事は昨年6月の時点で県自然環境保全条例の協定締結を念頭に現地視察をしたと言えるのか? 「なし崩し」を拒否できる県の許可権限  昨年7月24日、金子社長は「5月20日に申請をした静岡県の許可が非常に遅れている。これでは準備工事に入れない」などと発言した。この席で、準備工事には地権者の同意が必要であることを明らかにした。当時、金子社長が問題にした準備工事とは、千石ヤード宿舎整備を指している。  JR東海は千石ヤード整備に入るに当たって、大井川左岸から右岸を飛び越えて電線を引く必要があり、静岡県から河川法の占用許可を得なければならなかった。このため、5月20日にJR東海は占用許可申請を提出したのだが、標準審査期間の28日を過ぎ、2カ月以上たっても許可が下りていないことに金子社長が不満を述べた。その2日後、26日の知事会見で中日記者が、その件を問いただした。担当局長は、JR東海の申請が準備工事か本体工事なのかを慎重に精査している旨を述べた。それから3週間後の8月13日、県はJR東海から申請のあった河川占用を許可した。  県は、千石ヤードと西俣ヤードを結ぶ約4㌔の工事用トンネルをトンネル本体工事の一部に位置付け、掘削を認めない方針をJR東海に告げた。この結果、千石ヤード工事で必要な957kW供給できる電線架設を認めたが、工事用トンネル掘削で必要な1400kWの電線架設は認めなかった。水環境問題をテーマとする県中央新幹線環境保全連絡会議での協議を行い、「施工計画」「環境保全計画書」などを了解した上で本体工事に必要な許可を出すことになった。つまり、JR東海は「なし崩し」でトンネル本体工事へ一歩も進めないのだ。  昨年5月31日に開かれた大井川水利調整協議会は、20日にJR東海から河川法の申請があったため、それに関する意見を聞くことが目的だったのだろう。「なし崩し」云々は出たかもしれないが、県は河川法の許可権限でトンネル本体工事をストップできることを説明したに違いない。県自然環境保全条例で利水者の意見聴取をする必要性は全くないのだ。  昨年7月26日の会見で、ヤード整備について特種東海の同意が必要であることに関して、中日記者は知事の見解を求めた。結局、川勝知事は質問をはぐらかせて答えなかった。今回、県自然環境保全協定を結ぶのに当たって、当然、地権者の特種東海の同意は必要だが、利水者でもある特種東海は県の承認をJR東海が得ることを求めている。この経緯については、『リニア騒動の真相42雨中の「こんにゃく問答」対決』『リニア騒動の真相43「正直」こそ最善の戦略』を参照ください。  河川法の許可権限で「なし崩し」など到底できないことが分かっていて、さらに県が自然環境保全条例でヤード整備をストップする理由は全くわからない。 県の行政判断はあまりに一方的だ   6月26日金子社長との「対談」で、川勝知事は「県自然環境保全条例で5㌶以上であれば、自動的に委員会にかけて許可、不許可が決まる。県の権限はこれだけである」、その後の囲み取材でも「ヤード工事は明確にトンネル工事ではない。(県自然環境保全)条例を締結すれば、問題ない。条例に基づいてやっているので、協定を結べば、活動拠点を整備するのであればそれはよろしいと思う」などと述べている。  これらの知事発言を聞いて、金子社長だけでなく、JR東海関係者はヤード整備で川勝知事の了解が得られたと受け止めた。しかし、その後、事務方の説明を経て、2度目の囲み取材で、川勝知事ははっきりと準備工事は本体工事の一部であり認められないと断言した。JR東海は29日、「対談で知事は5㌶以上であれば協定締結の可否によって判断すると述べた。速やかに協定締結の準備を整え、ヤード整備に入りたい。もし、それが困難であること及びその理由についてうかがう」旨の書面を難波副知事宛に提出した。  難波副知事の回答は、「ヤード工事はトンネル掘削工事の一部である」という行政判断をしたという一方的な解釈を示した。このため、JR東海は3日、「条例の目的に照らして正当なものではなく、これまで担当課から説明を受けて準備を進めていたこととは違う」と不満を述べた上で、「変更した経緯と理由について明らかにしてほしい」旨を可能な限り早期で回答するよう求めた。  JR東海は県からすでに条例に基づいた「協定書案」まで示されていた。今回の新たな対応に、JR東海は文書に「戸惑っている」と書く通り、県は従来の姿勢を大きく変えたのだ。わたしの認識もJR東海と同じであり、もう一度、昨年来担当している自然保護課職員に取材しようとしたが、”多忙だ”と断られた。市川敏之くらし・環境部長は「いまになって考えを変えたわけではない。昨年と同じ」と回答した。難波副知事は、一つの開発行為を分割して順次認めた場合、「条例の趣旨が崩壊する」とまで述べたが、そもそも県条例はヤード整備に限定していたはずである。  果たして、どちらの主張が正しいのだろうか? お隣の山梨県自然環境保全条例は?  環境省所管の原生自然環境保全地域、自然環境保全地域に準ずる地域として、各都道府県は自然環境保全条例の地域指定している。地種区分では開発の可能な地域。静岡県条例の第1条で「生物の多様性の確保その他の自然環境の適正な保全を総合的に推進する」を目的とし、地域内の動植物の保全などを求めている。お隣の山梨県自然環境保全条例でも、「生物の多様性の確保その他の良好な自然環境の保全」が目的で、開発に対して動植物の保全措置を取ることなどを条件に協定書を結ぶなど同じである。  昨年5月、JR東海に示した「協定書案」では、トンネル坑口、濁水処理施設などの1・75㌶内のレッドデータブックに記載された動植物の保全措置を取ることでヤード整備は問題ないとするのが従来の県の姿勢だった。  ところが、今回の「対談」後に、県はトンネル掘削による河川への影響を議論している県リニア環境保全連絡会議生物多様性専門部会の結論を得ることまで求めている。  県リニア連絡会議設置は、国のリニア環境影響評価書に基づく知事意見で、大井川の河川環境に重大な影響を与えることを危惧するための対応であり、トンネル本体工事、導水路トンネル、輸送用トンネルなど水環境に影響を及ぼす恐れのある工事に対して利水者らの不安解消をJR東海に求めている。生物多様性専門部会で主に議論になっているのは、絶滅危惧種ヤマトイワナなど水生生物をテーマにしているのはこのためである。  自然環境保全条例の範囲が、県が従来の考えを変えてトンネル掘削工事すべてを含めることが適当か、少なくとも同じリニア工事を抱える山梨県あるいは環境省の意見を聞くべきではないか。いくら自治体に裁量があるとは言え、案件によって対応を変えるのはいかがなものか。  山梨県議会は3日、静岡県との対立でリニア整備の遅れについて「国が前面に立って課題解決に取り組むべきだ」という意見書を可決した。開業遅れが山梨県へ与える影響が大きいとしている。  南アルプスは本州に分布するコウモリのほとんどが生息する、コウモリ類多様性の高い地域。ヒメホオヒゲコウモリ、ニホンウサギコウモリ、キクガシラコウモリ(SARSの媒介動物とされる)、モモジロウコウモリなど準絶滅危惧種が生息しているが、その分布は正確にはわかっていない。南アルプスエコパーク保全が重要となれば、それらコウモリ類について正確に調べなければならない。生物多様性をとことんやれば果てしない。「環境」を優先すれば、「リニア」はあきらめるしかなくなるだろう。  「対談」とその後の知事会見を見れば、川勝知事が県自然環境保全条例を正確に理解していたとは言えない。そのために言い訳を糊塗するような「嘘」が出てきてしまう。川勝知事は『「嘘つきは泥棒の始まり」であり、公務員は絶対に嘘をついてはいけない」と何度も述べてきた。「闘い」は正々堂々とやるべきであり、なぜ、こんなところにこだわるのかさっぱり分からない。  ※タイトル写真は3日の副知事会見。記者たちは肝心のJR東海の疑問について理解していなかったようだ

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リニア騒動の真相44 川勝×金子対談の「裏側」

キツネにつままれた「対談」成果  静岡県庁にこれほどの数のマスコミが集まるのは本当に珍しい。本館玄関前に到着する金子慎JR東海社長を川勝平太知事が出迎えた。撮影等の場所を規制するなどメディア対応に県は職員を総動員していた。先週16日の大井川流域10市町とのウエブ会議で県の結論は決まっていたはずだが、金子社長は26日、一縷(る)の望みを掛けて「ヤード整備」への了解を求めて対談にのぞんだ。県庁2階まで階段を上ると、川勝知事に促されて、金子社長は立ち止まり、しばらく何か上のほうを見ていた(※タイトル写真)。この間に県職員が規制線の位置を変えると、2人はカメラのほうに振り返った。まぶしいカメラの放列が続いたあと、「対談」の幕は開いた。  マスコミの数の多さはこの「対談」の持つ意味の大きさなのか、それともメディア向けの単なる”茶番劇”なのか?テレビ、新聞で報道されなかった「対談の裏側」を見ることで、その真相が見えてくるはずだ。  午後1時半から川勝、金子対談は始まり、予定の1時間を20分ほど過ぎて終了した。午後3時前から10分ほど金子社長の囲み取材を経て、その後、川勝知事の囲み取材が行われた。金子社長は「ヤード整備について川勝知事には前向きな話をしてもらった。(「条例をクリアすればよい」という)川勝知事の真意がつかめず心残りだ」と、何度か「心残り」を繰り返した。  「対談」最終盤に入り、金子社長が「ヤードの件は水環境問題ではない。それ以前の問題だと理解してもらいたい」と述べると、川勝知事は「県自然環境保全条例では5㌶以上であれば、協定を結ぶ。県の権限はこれだけである」などと答えた。川勝知事がヤード整備で県条例を口にしたのは初めてであり、これまで東俣林道の安全確保を最優先にするなどといった対応とは全く違った。本当に、県自然環境保全条例をクリアすれば、ヤード整備に問題ないのか?  県自然環境保全条例は川勝知事が何度も繰り返す南アルプスエコパークの動植物保全などを担保する法的根拠だが、強制力を持たない。この条例では、業者が協定締結を怠った場合、業者名を公表する程度の罰則規定しかない。県が求める自然環境保全協定締結のハードルは非常に低い。念のため、「対談」直後に担当する自然保護課に連絡を入れて、県自然環境保全条例についての認識をもう一度、確認した。その結果、先週の市町との結論を覆し、”川勝知事はヤード整備を認めた”と理解するしかなかった。  金子社長退出のあと、川勝知事は囲み取材で「ヤード工事は明確にトンネル工事ではない。5㌶以上の開発であれば、(県自然環境保全)条例を締結すれば、問題ない。条例に基づいてやっているので、協定を結べばよい。活動拠点を整備するのであればそれはよろしいと思う」などとはっきりと述べた。条例が求める協定について担当部局から説明させるとも付け加えた。  「協定を結べばよい」と言う川勝発言からは、事務手続きさえ進めれば、問題はないと受け取るのがふつう。”ヤード整備を認めた”という判断を誰もがするはずだ。しかし、そうではなかった。  キツネにつままれたとはこんなことを言うのだろうか? 静岡県の”ダブルスタンダード”対応とは?  「対談」後、両者の囲み取材を終えて1時間以上経過した午後4時50分になってから、川勝知事は報道拠点となった県庁4階特別会議室に姿を現した。再び、記者らの囲み取材に応じたのだ。2度目の囲み取材には、ヤード工事対応の責任者である県中央新幹線対策本部長の難波喬司副知事や担当部長ら県幹部が報道陣の後ろで川勝発言に慎重に耳を傾けていた。その結果、県自然環境保全条例そのものがいままでとは違う色彩を持つことになった。つまり、「県自然環境保全条例を根拠にヤード整備を認めない」を明らかにしたのだ。  翌日の新聞紙面は『知事 ヤード整備認めず JRリニア延期表明へ 初のトップ会談物別れ』(27日付中日1面トップ)、『リニア27年開業延期へ 静岡知事、着工認めず 「JR東海の環境対策不十分」』(同読売1面トップ)、『リニア27年開業延期へ JR東海社長と静岡県知事 会談で平行線』(同日経1面準トップ)など。2度目の知事囲み取材を経て、金子社長が「心残り」と何度も述べた川勝知事の「真意」がはっきりとメディアにも伝わり、各紙の見出しを飾った。  中日「会談後の一問一答」では川勝知事と金子社長の談話の食い違いがはっきりと見えた。知事発言に期待を寄せた金子発言に対して、1度目ではなく、2度目の知事発言が記事に反映されたからである。  「条例をクリアすればOKとのことで、クリアの仕方は詰め切れなかった」(金子社長)に対して、「本体工事と一体であり、(ヤード整備を)認められない」(川勝知事)となっている。知事発言は1度目の囲み取材であれば、「条例をクリアすればヤード整備はOK」のはずだった。2度目の囲み取材で、川勝知事はJR東海の一縷の望みを見事に打ち砕いてしまった。  担当部局の説明に、「なぜ、JR東海だけ県自然環境保全条例による協定のハードルが高いのか?」を聞いた。担当理事によれば、これはアセス(環境影響評価)の続きであり、環境影響評価書の国交大臣意見にある地元の理解を得ることが必要となる、現在、議論をしている県環境保全連絡会議生物多様性専門部会の結論が前提になる、JR東海もそれを承知しているのだという。  現在認められている宿舎整備などのヤード整備に加え、トンネル坑口周辺の樹木伐採、斜面補強や濁水処理施設、沈砂池などが加わると、トンネル工事全体としての保全協定締結が必要になり、そのための手続きに生物多様性専門部会で納得できる説明を求めるというのだ。もし、そんなことを承知しているのであれば、そもそもJR東海はヤード整備の了解を求めるはずもないだろう。  これは行政のダブルスタンダード(二重基準)ではないのか? 「戦略」通りに進めた静岡県  21日付『リニア騒動の真相43「正直」こそ最善の戦略!』で、16日に開かれた流域10市町との意見交換会をシナリオに沿った”茶番劇”と批判した。静岡県が権限を有する河川法許可の審査基準に、「治水上又は利水上の支障を生じないものでなければならない」とあり、本体工事について中下流域9市町の意見を聞くのは理解できるが、今回の「ヤード整備」については河川法の「対象外」と難波副知事は明言した。水環境問題について各市町長はさまざまな意見を述べたが、ヤード整備とはかけ離れ、的外れそのものだった。  ヤード整備工事の可否を決めるのに、水環境ではなく、県は条例に基づく「自然環境保全協定」締結に求めることはできる。その結果が”ダブルスタンダード”になろうが、JR東海へのハードルを上げて、要望を拒否する方向に転換したのだろう。1971年の条例制定以来、このような運用は初めてである。当然、担当の自然保護課を超える高度な意思決定が行われたのだろう。こんな無理なことを強行すれば、いずれ静岡県行政への批判につながる恐れさえある。  今回の「対談」で、県でもJR東海と水環境問題の議論を行う意図はなかった。単に本体工事へ入るためのヤード整備をテーマにしただけである。それでも、マスコミ報道が水環境問題とヤード整備をごちゃまぜにしているから、中下流域の市町長らの出番となってしまったのだろう。  「利水者の声を聞け」。中下流域の自治体、団体はJR東海に求めるものはその一言に尽きるが、今回の「対談」の趣旨とは遠くかけ離れている。県条例の自然環境保全協定は利水者とは無縁の問題である。静岡県はようやく、県の権限に沿ったかたちで対応する戦略を立てたが、リニア担当の難波副知事らの思惑と川勝知事の理解はかみ合わず、「対談」の席で金子社長を十分に納得させることができなかった。  「ヤード整備」さえ認めない静岡県の立ち位置はどこにあるのか? 静岡県「リニア反対」の証拠とは?  金子社長訪問の1時間以上前から、びっくりするような横断幕が県庁玄関前に現れた。「リニア反対」を連呼する市議や運動家らがマイクを握って、金子社長の到着を待った。メディア対応に県職員は当たっていたが、このような派手な横断幕や「リニア反対」連呼にどうして対応しなかったのか?県庁敷地を管理する担当課長に聞くと、大々的に報道されていたので、「リニア反対」の人々が来る恐れはあったが、度を越えなければ問題ないと考えていた、と回答。警備員による注意等もなかった。派手な横断幕はまさに、静岡県が「リニア反対」を許容しているかのように映った。  「対談」の中で、川勝知事は「仮に水が戻せない場合、どうするのか?」「もしダメならばリーダーとしてどうするのか?」などリニア計画の変更または中止する事態を想定して、金子社長の対応を求めた。  さらに、3人の大学教授の名前を挙げて、リニアそのものが不要である識者意見を述べた。川勝知事が「水野和夫法政大学教授」を挙げたのは、23日付中日新聞を読んだからだろうか?『経済成長見込めず不要』『「より速く」は時代遅れ』の大見出しで、水野氏は『川勝平太知事がせっかく止めてくれている。ここで突っ走れば、後世になって誰も乗らないものを造ったということになるだろう』と予言していた。  リニア中央新幹線建設促進期成同盟会(沿線9都府県)は1979年に設立されたから、すでに40年超を経過、時代は大きく変わってしまった。今回の「対談」だけでなく、さまざまな席で川勝知事が必ず口にする「万機公論に決すべし」(「五箇条の御誓文」、国家の政治は世論に従って決定すべしの意味)からすれば、いまや「世論」はリニアに対して味方とは言えない。「鉄道大国」「技術大国」日本の威信が掛かっているのだろうが、それこそ時代遅れかもしれない。  今回の「対談」で明らかになったのは、金子社長が調整型の人物であり、川勝知事の圧倒的な迫力に押されていたことである。金子社長周辺に川勝知事、沿線の市町や大井川に詳しいブレーンが存在しないからだろう。そもそも静岡県は御しやすいとなめていた結果だが、JR東海はすべて受け身で何らの”戦略”も見られなかった。  これでは何度、「対談」を行っても結果は同じになる。「リニア反対」に屈するのかどうかは、すべて”戦略”に掛かっている。

ニュースの真相

リニア騒動の真相43「正直」こそ最善の戦略!

シナリオ通りの「知事と10市町長の会議」  静岡県の川勝平太知事は11日、リニア南アルプストンネル建設作業道となる静岡市の東俣林道等を視察した。その視察結果を受けて、「知事と大井川流域10市町長とのリニア関連意見交換会」が16日、静岡県庁と島田、焼津、掛川、藤枝、袋井、御前崎、菊川、牧之原、吉田、川根本の10市町をウエブで結び、テレビ会議方式で開かれた。袋井市長が3度も「聞こえますか?」と大きな声で繰り返すなど、相互に何を言っているのか分からず、また音が割れてネット視聴では非常に聞き取りにくかった。そのせいか、島田、御前崎、川根本、牧之原、掛川、袋井の6市町長が意見を述べたあと、県事務局から「(川勝)知事の都合で、金子(慎JR東海)社長と会うことでよろしいか?」と尋ねると、それまでの6人の回答は賛成4、反対2だったにも関わらず、全員がすんなりと了解した。  その後、藤枝、菊川、焼津の市長代理が用意した文書を読み上げるなど意見交換にはほど遠く、そんな中で、掛川市長が「JR東海の準備工事は静岡県の権限でストップできるのか?」と尋ねたのが、唯一、聞く価値のある議論だった。難波喬司副知事が「(許可権限を持つ河川法は)河川区域に関わるものであり、(準備工事の対象となる椹島、千石、西俣の)ヤード(トンネル工事を行うための宿舎を含めた作業場)は対象外である。ヤード拡張に伴う県自然環境保全条例による協定締結は必要」などと答えた。  今回の目的は、JR東海の「準備工事」を認めるのかどうかの意見を聞くことであり、各自治体の行政トップにある者ならば、「権限」があるかどうかが何よりも優先するはず。それが全く「権限外」の事案にどのように当たるのか?それでも、難波副知事の回答に疑義をはさむ首長はいなかった。  川根本町長が「ヤード内に生息する動物がどこかへ行ってしまったかもしれない」と述べたが、その疑問に回答できるのはヤード内の準備工事に関わる権限を有する自治体のみである。  しかし、その肝心の自治体は「意見交換会」の席に呼ばれていなかった。 「準備工事」権限を持つ静岡市は外された  JR東海が求めているヤードの準備工事とは、土砂ピット(穴)、濁水処理設備、資材置き場、坑口予定個所の樹木伐採や斜面補強など。これらの作業に関わる法律は土壌汚染対策法、森林法、土砂採取条例、県立自然公園条例など、さらに、宿舎建設のためには建築基準法の確認作業なども必要。それらの権限はヤード所在地(静岡市葵区田代)である静岡市が有している。  静岡県が権限を有する河川法許可の審査基準に、「治水上又は利水上の支障を生じないものでなければならない」とあるから、本体工事について中下流域9市町の意見を聞くのは理解できる。しかし、今回の「準備工事」について河川法の「対象外」と難波副知事が明言した。これまでは利水に関係する問題ということで静岡市を外していた。「準備工事」を行えるのかどうかを問うのであれば、静岡市の意見を聞くのが本来の筋である。  川勝知事と田辺信宏静岡市長との関係がどのようなものであれ、本川根町長の発言「ヤード内の工事で動植物についての影響をどう考えるか」は、川勝知事の主張する南アルプスエコパークの重要性に通じている。すべて静岡市に関わる問題であり、静岡市がリニア問題の会合を避けているかどうかは分からないが、県は静岡市に出席を求めるか少なくとも意見を聞いておくべきだった。  意見交換会の結論について、各紙は『準備工事6月再開認めず 知事と首長ら意見交換 「国の有識者会議待つ」』(日経6月17日付)などと紹介した。「JR東海社長に流域住民の思いを伝えてほしい」(島田市)、「国の有識者会議の結論を待つべき」(掛川市)、「2027年開業にこだわるヤード整備の進め方は住民の不信感が増す」(藤枝市)など的外れの意見が続いた。  結局、「準備工事6月再開認めず」の結論で終えた。島田市長は「リニア工事に反対しているわけではない」とも述べていた。政治家としての戦略の1つかもしれないが、「本体工事」に関わる水環境問題ではないところまで「反対」してしまえば、全国の有識者は「静岡県は(本当は)リニア反対」と見るだろう。  今回の意見交換会をシナリオに沿った”茶番劇”と批判する関係者がいたが、その批判を否定できない。静岡市を外した上で、このような結論では、まともな議論を行っているとは思われないだろう。 昨年9月の川勝知事「筋違い」発言  昨年9月10日の定例記者会見で、川勝知事は「(田代ダムの水利権の話をJR東海に求めるのは)筋違い。第三者のJR東海は何か言うべき立場にはない。JR東海がやるべきは湧水全量を戻すことに尽きる」と述べた。  「上流部の河川水は、その一部が東京電力管理の田代ダムから早川へ分岐し、山梨県側へ流れている。このことを踏まえた上で、静岡県の水は静岡県に戻す具体的な対策を示す必要がある」と県は中間意見書でJR東海の見解を求めた。この意見書では「田代ダムから山梨県側に流出する静岡県の水を何とかしろ」と求めているように読めるから、JR東海は「東電の管理する田代ダムについて取水の制限をするのは当社では難しい」と回答した。  このような議論に対して、川勝知事「筋違い」は、田代ダム水利権はJR東海ではなく、静岡県、中下流域の利水者と東電との問題であることを踏まえた発言だった。  川勝発言などを紹介した『リニア騒動の真相16「筋違い」議論の行方?」は、「Honesty is the best policy」を結論として挙げた。雷と電気が同一であることを立証して避雷針を発明した科学者で、アメリカ独立宣言起草者の政治家ベンジャミン・フランクリンは『「正直」は美徳ではなく、最善の戦略である』をモットーにしたことを踏まえ、川勝知事は「Honesty is the best policy」を承知して、「正直=最善の戦略」を取っていると評価した。果たして、今回はどうか?  金子社長は26日、県庁を訪れ、川勝知事と会談する。1時間の予定であるが、川勝知事は10市町長との意見交換会結論「6月中の準備工事再開は認められない」を伝えるだけなのだろうか?20日付静岡が「県庁本館の正面玄関で金子社長を知事が出迎える」として、”異例の厚遇”という記事を書いた。単にマスメディアのための演出ならば、金子社長は出迎えを断り、そっと裏口から入ったほうがいい。”異例の厚遇”が単なる表面的なものではなく、知事の「正直=最善の戦略」であるかは政治家としての評価につながるだろう。 大井川開発の歴史は大倉喜八郎に始まる  6月14日付『リニア騒動の真相42雨中の”こんにゃく問答”対決!』でそもそも「準備工事」は静岡県の権限ではないのだから、「JR東海は地権者の特種東海に要請すべき」と書いた。  南アルプスの24430㌶という広大な社有林経営のためにことし4月誕生した特種東海関連会社・十山(本社・静岡市)の鈴木康平社長は「(準備工事でJR東海が静岡県の了解を得てもらうのは)利水者でもある当社の価値を守るため」と答えている。「死の商人といわれた大倉喜八郎には、日露戦争で缶詰に石ころを入れて送ったという噂が根強く流れていた」(河原宏『日本人の「戦争」』築地書館)という大倉喜八郎がその広大な山林を買収した。噂通りの冷徹な商人を創業者に持つならば、どうしてJR東海の最大事業に手を貸さないのだろうか?  「東海パルプ100年史」(2007年12月)序章は、「大倉喜八郎と井川山林」を詳しく書いていた。「電気好き」だった大倉は渋沢栄一らと大倉組内に東京電燈(後年、東京電力に吸収)を設立したとある。関係者によると、大井川の水を田代ダムから早川に流して電力事業に乗り出したのは、大倉だったようだ。  田代川第1、第2発電所は大井川から最大取水量4・99㎥/秒の水利権を持つ。東電は田代ダムに貯水される大井川の水を最大4・99㎥/秒使用できる。南アルプストンネル開設後、大井川表流水の減量分0・7㎥/秒のうち、JR東海は0・4㎥/秒を西俣非常口から西俣川に戻すとしているが、田代ダムからの維持流量を増やすほうがずっと大井川の水は戻るはずである。  特種東海が南アルプスの地権者としてではなく、下流域の利水者としての立場で、JR東海に県の了解を求めるように主張するのは田代ダムの話を振られたくないからなのだろうか?  大倉の時代、井川地区をはじめ南アルプスは林業が栄え、多くの人々が生活の糧にしていた。11日の知事視察に同行した記者たちは、大井川河岸にあまりに大量の流木が押し寄せているのに驚き、林業がいかに廃れてしまったのかを目の当たりにした。  林業の栄えた大倉の時代は遠い昔であり、井川などの貧しい過疎地域も中下流域からは遠い場所にある。だからこそ「水を飲む者はその源を思え(飲水思源)」が大切なことばとなる。 「飲水思源」の感謝が解決の糸口だ  「飲水思源」は、静岡市出身の高橋裕東大名誉教授(河川工学)が教えてくれた。30年前、中国でその言葉を知った高橋教授は当時、日本の各地で起きていたダム反対運動を連想したという。「下流でダム開発により水資源の恩恵に浴する人々は、上流でダムによって水没した人々や集落に思いを馳せよう」と話した。  林業が廃れたいま、特種東海は椹島を中心に観光開発に期待を掛けている。それが、上流部に生活する人々に恵みをもたらす可能性は大きい。  「桶つくるさわらの島の新事業、でき上るまでたがをゆるめな」。1926年大倉喜八郎が90歳を記念して、標高3120mの赤石岳登頂のときに読んだ歌が残る。当時の新事業とは水力発電だったが、いまや観光開発こそ期待の新事業である。  26日午前、奇しくも静岡市で特種東海の株主総会が開かれる。金子社長はその席へ出向き、特種東海社長に懇願したほうがいい。さらに、午後1時半からの知事との面会に同席をお願いすべきだ。「準備工事」がテーマであるならば、地権者の同意は欠かせない。それが南アルプス観光開発につながる。  20日付中日は1面トップ記事で「2027年リニア開業が絶望的な状況」を伝えた。本体工事に6年余も掛かるのであれば、準備工事を6月から始めてもとても2027年に間に合わない。知事も副知事も「河川法の許可権限」を取引材料にしないと重ねて明言してきた。水環境問題は科学的、工学的に議論を重ねても、正しい結論を得るのは非常に難しい。当初、JR東海は流域の市町へ思いを馳せることをしなかった。だから、これほどまでに静岡県の理解が得られていない。JR東海も「飲水思源」の感謝のことばを胸に流域の人々に向かい合ってほしい。 ※タイトル写真は静岡県庁で川勝知事が10市町長とのウエブ会議にのぞむ様子。撮影後、事務所に戻り、パソコンで会議を視聴した

ニュースの真相

リニア騒動の真相42雨中の”こんにゃく問答”対決!

昨年も同じ議論、県は「本体工事」を蹴る  ほぼ1年ぶりとなる6月11日、川勝平太静岡県知事の南アルプスリニア工事現地視察に再度、同行した。時折、激しい雨が降る中、川勝知事は精力的に大井川河原を歩き回り、大規模な斜面崩壊が長期間にわたって続く赤崩(あかくずれ)の現況などをJR東海の宇野護副社長、メディアの記者らに説明した。視察終了後の囲み取材で川勝知事は「宇野副社長が赤崩を間近で見たのは初めてと聞いた。ぜひ、金子(慎JR東海)社長にも大井川両岸のすざまじい土砂崩壊をご覧いただきたい」などと話した。  赤崩から静岡工区基地となる椹島(さわらじま)ヤードに到着後、現地の作業員と話して、1年前とどこが違うのか、そして「準備工事」と「本体工事」の違いが何かがはっきりと見えてきた。  昨年7月24日、金子社長は会見で「5月20日に申請をした静岡県の許可が非常に遅れている。これでは準備工事に入れない」など、今年同様の発言をした。不当に審査を延ばしているという金子発言を受けて、担当局長は通常1カ月で終える審査が2カ月以上掛かっていることについて、「精査しているから」と答えた。  それから3週間後の8月13日、静岡県はJR東海から申請のあった河川の仮占用を許可した。この許可によって、千石ヤードに電線、水道管が通り、作業員らの8棟の宿舎のための「準備工事」が始まった。今回の知事視察に立ち会った作業員たちは千石ヤード宿舎を使っていると答え、毎日、約40㌔離れた井川地区から東俣林道を通う危険なでこぼこ道から解放された。  昨年8月の段階で、静岡県は「本体工事」について認めなかった。千石ヤードから西俣ヤードまで2車線の工事用トンネル約4㌔を建設する予定であり、工事用トンネルを掘り出すためには大量の電力が必要となるが、許可しなかった。JR東海は、あらためて大型重機などを動かす電線仮設の許可申請をしなければならない。当時、「精査」が必要だったのは、「準備工事」と「本体工事」を区別する作業をしていたからだ。その結果、宿舎用など957kWの電力供給を認めたが、工事用トンネル建設の約1400kWの電線架設は除外された。  「本体工事」に入るためにはどうしても静岡県の許可が必要となる。だから、それ以外の樹木伐採や整地など静岡県に許可権限のないすべてが「準備工事」と考えればいい。「準備工事」をJR東海が進めたからと言って、なし崩しに「本体工事」に入ることなどできるはずもない。 「準備工事」はちゃんと進んでいた!  「今月中に静岡工区での『準備工事』に入らなければ、リニアの2027年度開業は難しい」。金子社長の発言を受けて、川勝知事は「トンネルを掘るための工事なら本体工事の一環だ。2027年はJR東海の単なる企業目標にすぎない」などと答える。  金子社長の求める「6月中の準備工事再開」が大きなテーマとなり、記者たちの質問が集中した。「本体工事」と「準備工事」の違いは何か?川勝発言は融通無碍に変わった。実際のところ、川勝知事は「本体工事」と「準備工事」の違いを十分に理解した上で、「禅問答」をしていたのではないか。12日付新聞各紙は「準備工事 月内再開認めず」(産経)「知事、『準備工事』に否定的」(静岡)などの見出しが並んだ。  それでは次の2枚の写真を見てもらおう。  1枚目は2019年6月13日に現地視察をした際の椹島ヤードから大井川を見下ろしたものであり、2枚目は今回の視察で知事がJR東海からの説明を受けた、ほぼ同じ位置からのもの。左側に見える赤い矢印がリニアトンネルからの湧水を流す導水路トン ネル排出口付近を指す。ところで、1枚目の写真と2枚目では大きく違うのがわかる。昨年は大井川河原は大量の砂利堆積が続いていたが、今回は膨大な河原の砂利がきれいに片付けられ、さらに導水路付近が一段高くなり、河原には排水のための水路ができている。赤い矢印の区域は整地されている。「準備工事」は着々と進んでいたのだ。12日、JR東海が発表した資料では、赤い矢印区域の濁水処理設備等の設置や樹木伐採、斜面補強など手をつけたいようだ。ただ、2枚の写真を比べると、手前の斜面補強はすでに行っているように見える。  現地視察後、宇野副社長に「もし、『2027年度開業』が絶対に外せないならば、静岡県には何の権限もないのだから、地権者の特種東海製紙に強く要請すべきではないか」と聞いた。宇野副社長は「静岡県の”了解”をとってくれと特種東海が言っているから」と答えていた。  現地視察をしたあと、川勝知事、宇野副社長の話を聞くと、まるで「こんにゃく問答」だった。とんちんかんでわけのわからない「禅問答」である。 「こんにゃく問答」ー特種東海が”了解”求めたから?  リニア静岡工区工事で最大級の恩恵を受ける特種東海はなぜ、JR東海の意向を無視するのだろうか?  JR東海が「準備工事」を進めたい椹島、千石、西俣の3つのヤード、それに続く道路などいずれも地権者は特種東海である。また、特種東海(島田市の旧東海パルプが前身)は毎秒2㎥もの水利権を有する、大井川の恩恵を受ける利水者でもある。リニア工事は流域の10市町には何のメリットもないが、特種東海は”リニアバブル”とやゆされるくらいに経済的な恩恵にあずかるといわれる。  椹島に建設される大型の宿泊施設はリゾートホテルに転用される。また、東俣林道が整備されれば、特種東海の二軒小屋ロッジ、ウイスキー工場などを含め南アルプス観光の発展が大いに期待できる。リニア工事後にはすべて特種東海が運営していく。それなのに、特種東海はJR東海の要望になぜ、首を縦に振らないのか?  昨年のように静岡県に権限があるならば、川勝知事に許可を求めるのが筋だが、今回の「準備工事」は違う。ところが、川勝知事が認めないから「準備工事」ができないと報道、そのために、2027年リニア開業の遅れは必至とメディアは伝える。  「準備工事」再開のために、金子社長は川勝知事の面会を求める。23日開催のJR東海株主総会で、川勝知事が認めないから、「準備工事」に入れず、2027年開業が遅れると説明するのだろうか?これでは静岡県がストップを掛けているようだ。静岡県に「準備工事」を止める権限など全くないのだから、特種東海と話すべきである。  2027年開業にどうしても「準備工事」が必要ならば、民間のトップ同士で話し合えば、何とかなるはずではないか。わからないのは、川勝知事の顔色をうかがうことで特種東海にどれほどのメリットがあるのかだ。そもそも、JR東海、特種東海との間にどのような契約があるのかもさっぱりわからない。もし、「2027年開業」が遅れた場合の責任はJR東海か、静岡県か?はたまた特種東海か?  川勝知事、宇野副社長の「こんにゃく問答」を演出したのは、実は特種東海だったかもしれない。 「崩れ文化」を共有する流域市町のための視察  13日、国交省の水嶋智鉄道局長、江口秀二技術審議官らが報道陣を入れないで現地視察をスムーズに行った。午後6時半からの会見で水嶋局長は「『準備工事』、『本体工事』といったことばが乱れ飛んでいるが、観念的、抽象的なことばの議論に陥らないで建設的な議論が行われることが重要」などと話した。まさに、その通りである。  ただし、川勝発言が観念的、抽象的な「禅問答」となったのは、JR東海にも責任がある。権限に基づかない、あいまいな”了解”を求められたからである。水嶋局長は「県が判断を行う場合、どのような法的根拠によるものか明確に示す必要がある」と指摘、それでは、特種東海から川勝知事に託された”了解”はどのように考えるのか、水嶋局長に尋ねたが、はっきりとした回答は得られなかった。多分、当事者同士ではないので深く立ち入ることはしないのだろう。金子社長は昨年から「準備工事」ということばを使い、静岡県もその違いを認識していた。一度、国交省主導でJR東海、特種東海の会合を持ったほうがいいのではないか。”了解”などという法的根拠や制度とは関係のないあいまいな手続きのための面会を求められているのだから。  16日のウエブによるリニア関係10市町長意見交換会(焼津、藤枝、菊川は代理)が行われたあと、今月中に川勝知事は金子社長と話し合いを持つのだろう。  川勝知事が、金子社長にも見せたいと言った「赤崩」は崩壊面積約38㌶にも及ぶ大規模な崩壊地である。もし、赤崩の治山事業を行えば、数百億円規模に膨れ上がる。リニアトンネル工事で最大の残土置き場となる燕沢(つばくろさわ)で、堰堤の土砂が埋まっていることを川勝知事は指摘した。1966年から、静岡県の要請で林野庁の民有林直轄事業がスタートしているが、あまりに大規模なために広範囲には手が付けられない。かろうじて、燕沢には治山用の堰堤が築かれている。大井川両岸の「崩れ」はいたるところで見られる。  下流域には生命に匹敵するほど大切な水同様に、大井川の大量の土砂も大切である。長い年月を掛けて堆積していき、大井川平野を形成した。さらに駿河湾に流れ出て美しい海岸部をつくる。川勝知事は、大井川の「崩れ文化」を話すことで、その流域に暮らす人々の生活に思いをはせてほしいと金子社長にお願いするのだろうか。  どのような決着点か見えてこないが、国交省が適切な指導に入る姿勢だから、建設的な結論に向かうはずである。 ※激しい雨の中、川勝知事(左)、宇野副社長が燕沢の残土置き場を視察した

ニュースの真相

リニア騒動の真相41「県益」を考えた対応を!

100キロ離れた中下流域の影響はない!  「核心に触れてきた」。6月2日国交省で開かれた第3回リニア中央新幹線静岡工区有識者会議をまとめた福岡捷二座長(中央大学研究開発機構教授)のことばがすべてを物語っていた。福岡座長発言は、沖大幹東京大学教授(水文学、水資源工学)、徳永朋祥東京大学教授(地下水学、地圏環境学)らの発言を受けたもので、静岡県関係者を慮ってか、結論的な物言いはしていないが、議論の全体を聞いていれば、有識者会議の方向性がほぼ決まったことが分かる。  要するに、トンネル内の湧水全量を戻すことで中下流域の地下水に影響はないことを静岡県民にどのように説明していくのか、そのために、JR東海には各種データをよりわかりやすく工夫するように求めたのだ。  有識者会議は「中下流域の地下水への影響」、「工事期間中の湧水県外流出」を2大テーマとしている。この2つのテーマは密接に関連しているように見えるが、実際は全く違う。少なくとも、沖教授らはそう考えていることがわかる。  「湧水全量戻してもらう。これは県民62万人の生死に関わる」。「日経ビジネス」(2018年8月20日号)誌上に掲載された静岡県の川勝平太知事発言は、「大井川表流水」の問題だった。それがいつの間にか、「中下流域の地下水への影響」問題にすり替わった。  静岡県の専門家会議は、トンネル工事によって地下水の流れを切断、または流れを変える可能性、重金属等の有害物質が地下水に流出する可能性を指摘、百㌔も離れた中下流域の影響を問題にした。それを受けて、川勝知事は2つの違う問題を全く同じ視点で発言するようになった。川勝発言を受けてか、百㌔離れた中下流域の市町長らは過去にあった「水返せ運動」と同列で騒ぎ立てた。  JR東海は一貫して中下流域の地下水への影響は生じない、としてきた。今回の会議でも、宇野護副社長、澤田尚夫中央新幹線建設部次長は「中下流域の地下水は掘削される南アルプストンネルから約百㌔離れており、影響は生じない」を説明、沖教授らがこれを支持する発言を行った。  有識者会議に出席する静岡県専門部会の森下祐一静岡大学客員教授、丸井敦尚国立研究開発法人産業技術総合研究所地質調査総合センタープロジェクトリーダーも沖教授らの発言に「異論」を唱えなかった。水循環基本法フォローアップ委員会座長で、世界的な水の権威の発言を否定するのは難しいのだろう。 中下流域で問題が起きれば、「ブラックスワン」  大井川地域など県中部地域の地中に蓄えられている地下水賦存(ふぞん)量は58・4億㎥、そのうち地下水障害を発生・拡大させることなく利用できる地下水量は3・4億㎥。1960年代後半から焼津、吉田などで盛んに行われた養鰻業によって地下水の減量が顕著になったことから、71年に地下水の採取に関する県条例を制定、77年に改正、さらに2018年にも改正されている。  地下水採取を公的に管理する静岡県は、中下流域の15本の井戸によって、地下水の経年変化を調べている。有識者会議では、最上流部にある新東名付近の島田市島から下流域の吉田町川尻、焼津市藤守、牧之原市細江などの井戸15本の地下水位(常時計測)10年間の結果を別冊データとして専門家委員に示した。毎年の最大、最小、平均とともに、月平均水位など詳しい地下水の水位がひと目でわかるようになっている。条例制定後、現在まで大井川地域の地下水はほぼ同じであり、大きな減少などは見られない。  大井川は間ノ岳(3189㍍)を源流に駿河湾まで約168㌔の長さ、流域面積1280㌔平方㍍の大河川。間ノ岳だけでなく、大井川の水源は日本第2位の白根北岳(3192m)、荒川岳、赤石岳、聖岳など3千m級の南アルプス13座の山々が連なり、中下流域まで百㌔の間に不連続の断層帯が続き、南アルプスの地下水が中下流域まで伏流水のように流れていく仕組みは見られない。  リニアトンネル建設地の下流域には数多くの支流があり、豊富な水が本流に流れ込み、中下流域への利水の役割を果たす国交省の長島ダムに水を供給している。  中下流域の地下水量に大きな影響を及ぼすのは、それぞれの地域の雨量や工場などの取水量である。百㌔も離れた河川上流部の水の変化が地下水にどのような影響を及ぼすかという調査研究が行われないのは、JR東海の主張通り、大井川の場合、表流水として、そのほとんどが流れているからであり、南アルプスに降った雨が下流域の湧水となるわけではないからだ。川勝知事が「62万人の生命に影響」と言うのは、大井川広域水道を利用する島田、焼津、掛川、藤枝、御前崎、菊川、牧之原7市を合計した人口であり、まさしく「表流水の問題」である。  「リニア騒動の真相35『ブラックスワン』が起きる?」で、地下約4百mに建設される南アルプストンネル(約8・9㌔)が百㌔以上離れた地域の地下水に影響を与えてしまうとすれば、科学的な常識を超えた現象である、と書いた。つまり、「ブラックスワン」(常識を覆す大変化が起きること)が大井川の中下流域で起きる可能性はゼロではないが、限りなく、ゼロに近いことも確かである。そのためJR東海は期間無制限の「補償」にも言及している。  地下水を大量に使ってきた養鰻業は廃れてしまったが、生活用水を地下水に依存する吉田町はその影響には強い関心を持つ。「想定外の事態(地下水の枯渇)に対し、誰も責任を取り続けることができない。JR東海は100年、200年、300年、400年と責任を取り続けてくれない」(吉田町長)発言は政治家としては理解できるが、「科学的、工学的な議論の場」では相手にされない。つまり、もし何か万一のことがあったらという「ブラックスワン」を取り上げるのは、「政治的な議論の場」であるからだ。その役割は川勝知事に任されている。 非公開は「本県に厳しい結論を出すため」?  有識者会議を伝える3日付新聞各紙を見て驚いた。ほとんどすべてが会議開催を伝えるだけで、各委員発言を紹介したのは中日のみだったからだ。静岡は『データ不足 JRに指摘 委員「事実、推定分けて」』の見出しで、委員たちの議論の中身に触れず、JR東海のデータ提示をより分かりやすくという委員らの指摘を紹介しただけだった。中日は有識者会議各委員の主な発言をまとめた。  「トンネル湧水を全量戻すなら下流に影響しないはず。大井川の平均流量・毎秒74㎥と比べれば、先進坑掘削時に(山梨県側に)流出する毎秒0・08㎥が受忍限度かは受け手の気持ち次第。JRは住民が何に不安なのかをしっかり理解して、影響の比較対象を考えるべきだ」(沖大幹東京大学教授)、「技術者の感覚として(JRが提示した掘削予定地付近の水の浸透しやすさを示した数値からは)上流域の地下水はある程度河川に流れ出ている可能性が高く、中下流域の地下水の影響は大きくないとみられる」(徳永朋祥東大教授)など各委員の主張の”肝”をわかりやすく伝えていた。  新聞紙面が何をどのように伝えるのかは、それぞれの編集方針があるのだろうが、これでは中日以外の読者は有識者会議の議論内容を理解できないだろう。やはり、関心のある向きは国交省が公開する議事録を読むべきだ。  6日付静岡は、県議が有識者会議傍聴ができないことを問題視という記事を掲載した。取材すると、共産党、ふじのくに県民クラブの県議が傍聴を希望していた。静岡の記事では、県議の一人(匿名)が「専門家会議が委員名を伏せるのは、本県に対して厳しい結論を出そうとしているからでは」と伝えている。「本県に対して厳しい意見」とは何か?中日を読めば、どの委員がどんな主張をしているかの一端は理解できるだろう。「中下流域の地下水に影響はない」が「厳しい結論」だと考えるならば、県議は会議の趣旨を誤解しているのか、全く分かっていないかだ。  第1回会合のJR東海金子慎社長発言が問題になり、金子社長は正式に謝罪した。「科学的、工学的な議論の場」に自社の都合とも言える政治的な発言をしたからである。川勝知事は金子社長が面会を求めたのに対して、「有識者会議の検討を見守るのが筋だ」と回答している。  「会議の結論を県議会で検証するためにも傍聴は必要だ」と県議(匿名)は訴えたらしいが、会議の結論は議事録を読めば十分わかるだろうし、福岡座長がまとめるはずだ。どの委員がどんな意見を言うのかをチェックするのは「筋違い」である。  傍聴を許可されている新聞、テレビ報道が期待外れだとしたら、県議らは報道機関に厳しい意見を言ったほうがいい。 国交省全体と事を構えるのか?   前回の「リニア騒動の真相40」では、川勝知事が記者会見で水嶋智鉄道局長を批判した記事を書いた。静岡県はいまだに「全面公開」を求めている。1日付で難波喬司副知事は、赤羽一嘉大臣が「静岡県が求めている会議の全面公開との要件は、基本的に満たしているものだと考えている。こうしたことについては、静岡県の担当者の方とは事前に調整して、異論はなかったものと承知している」と発言したことに対して、『県はこれまで一貫して全面公開を求めており、「異論がない」と発言したことはない』と抗議した。  国交省に確認すると、ことし3月6日に「報道関係者の傍聴、会議後の記者ブリーフィング、議事録の速やかな開示」による「透明性の確保」について県側に説明、そこで「異論は出なかった」という。そのときに県側が「『異論がない』とは発言しなかった」とは言っているから、どちらの主張が正しいのか分からない。このような「闘い」は意味がなく、こじれれば、静岡県は鉄道局だけでなく、国交省全体と事を構えることになる。  静岡県は県民のために県土を発展させる役割を持つ。静岡県は長い間、公共事業のシェアが低く、そのために一般道路などの社会資本がお粗末だと批判されてきた。愛知、神奈川、山梨へ行ってみれば分かるが、静岡県の一般道路は各県と比較してあまりに貧弱である。国の公共事業を獲得できなかったからだ。必然的に県民は費用を支払い、東名、新東名など有料道路を使うことになる。歴代の政治家(知事、国会議員ら)が本県の公共事業をおろそかにしてきた結果は明らかである。  「国益」があると同様に「県益」もあり、各都道府県知事、地元選出国会議員らは今回のコロナ対策でも競っている。川勝知事は赤羽大臣と面会する目的を、「全面公開」を求めるだけでなく、来年の東京オリンピックなどでの支援を求めることを挙げていた。  「包帯のような嘘を見破ることで学者は世間を見たような気になる 時の流れを止めて変わらない夢を見たがる者たちと戦うため」(中島みゆき「世情」)。沖教授は自著「東大教授」(新潮新書)でこの歌をうたっていた。 ※タイトル写真は2日開かれた「第3回有識者会議」(国交省提供)

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リニア騒動の真相40「川勝劇場」の正当性探る?

なぜ、川勝知事は”爆発”したのか?   『恥を知れ、と言いたい』  あまりに強烈なひと言だった。静岡県の川勝平太知事が国交省の水嶋智鉄道局長を名指しした批判である。その他にも「folly(愚か者)、(水嶋局長は)猛省しなければならない」「(水嶋局長は)会議の運営が拙劣である。マネジメントの不誠実さが現れている」「(JR東海の)金子(慎)社長を(有識者)会議に呼んだのだから、責任を取るのは会議を指揮した水嶋局長ではないか」「金子社長の発言を許したのは水嶋局長、金子社長を(有識者会議に)呼んで謝罪、撤回させるのが筋だ」「(水嶋局長は)金子社長にすべて責任転嫁させている。水嶋局長は要するに筋を曲げている、約束を守らない、やる気がない」などなど。水嶋局長へのさまざまな不満、批判が続いた。なかでも川勝知事のボルテージが最高潮に達した「あきれ果てる運営で、恥を知れ、と言いたい」が極め付けだろう。  27日午後、静岡県庁別館の知事会見場へ足を踏み入れると、テレビ、新聞のカメラがいつもより多いのに驚いた。田辺信宏静岡市長、鈴木英敬三重県知事らに厳しい批判を繰り返した「川勝劇場」幕開けを期待していることがはっきりとしていた。  22日川勝知事が国交省主催の有識者会議について、「会議の透明性」「JR東海への指導」について申し入れを送ったのに対して、26日水嶋局長の回答が寄せられた。いずれも川勝知事の求めを退けた。ゼロ回答に対して、川勝知事コメントは「甚だ遺憾。もはや鉄道局とは話にならない。国交大臣に直接意見を述べたい」など”爆発”寸前だった。そのコメントを読めば、各社の記者たちは、恒例の「川勝劇場(激情?)」が始まるのが必至と見たのだろう。多数のカメラの中、まさにその通りとなってしまった。  さて、極め付けの『恥を知れ』である。水嶋局長の「恥ずべきこと」とは何か?川勝知事の批判は、主に1「会議の全面公開」、2「会議の運営」について静岡県の求めに応じなかったことにある。  本当に、水嶋局長は恥じなければならないのか? 水嶋局長批判は「筋が通らない」  水嶋局長は官僚であり、政治家ではない。当然、会議の運営について個人の裁量ではなく、国交省の判断基準に縛られている。法律や規則に沿って会議を運営しているはずだ。  国交省でもすべての会議は原則的に全面公開であるが、1機密性など 2個人情報などに関わるものの他に、3「率直な意見の交換若しくは意見決定の中立性が不当に損なわれるおそれがある場合」などでも会議を非公開とすることはできる。静岡県の求める「全面公開、透明性の確保」について、水嶋局長は、報道関係者の傍聴、会議後の記者ブリーフィング、議事録の速やかな公表で確保しているという。  さらに、静岡県の求めに応じて、オブザーバーとして静岡県、大井川流域の8市2町のほか、新たに大井川利水関係者を加えた。また、沿線のリニア反対運動などを念頭に、有識者会議の各委員から、生配信での発言の取り扱われ方等に懸念が示されており、「限定的な全面公開」は委員の意向でもある。つまり、委員らの「率直な意見の交換」のために報道関係者らの傍聴に限るのは、水嶋局長個人ではなく、国交省の判断基準に沿ったものである。  静岡県の求める「全面公開」が公益上の必要性を認められるのかどうかは、最終的には赤羽一嘉国交大臣の行政的な判断に任せられる。26日付川勝知事コメント「国交大臣に直接意見を述べたい」。つまり、上位者の大臣に直訴したいのだろう。優秀な官僚であろう水嶋局長がこれほどこじれている問題をなおざりにするはずもなく、赤羽大臣の判断を仰いだ上で川勝知事に26日回答したと読むのがふつう。だから、よほどのことがない限り、国交省はこれを変えない。公務員であれば、誰もが承知する”常識”を静岡県担当者はなぜ、知事に説明しなかったのか?まさか27日記者会見で再び、川勝知事から「赤羽大臣」の名前が出るとは思いもしなかった。  また、静岡県の会議の公開基準も国交省とほぼ同じであり、1機密性など、2個人情報などのほかに、3「公開することにより、公正かつ円滑な議事運営に著しい支障が生じることが明らかに予想される場合」という曖昧な規定で非公開を容認している。これが国交省の「率直な意見の交換」などに当たる。つまり、静岡県もすべての会議情報を「全面公開」しているわけではない。  静岡県との約束は「全面公開」だが、具体的な会議運営を進める中で、特に委員の意向を無視するわけにはいかない。そんな事情は静岡県でも同じだろう。ああ、そう言えば、静岡県が「非公開」にした「リニア関連会議」があった。  当然、その会議でも「率直な意見の交換」があったはずだが、会議の核心はいまでも「非公開」のままである。 10市町長は「川勝知事一任」を決めたはずだ?  ことし1月20日、「川勝知事と大井川流域10市町首長とのリニア関連意見交換会」が静岡県庁別館で開かれた。14日にもらった通知では、非公開となっていたので、「川勝知事はリニア関連会議はすべて公開と言っていた」と担当課に話した。16日の修正で「知事あいさつ」まで公開とし、会議終了後に難波喬司副知事、染谷絹代島田市長が囲み取材に応じるとのことだった。「率直な意見の交換」の場であり、「非公開」はやむを得ないのかもしれない。  事務局の島田市に「議事録」公開を求めたが、静岡県、関係市町との調整があるので、しばらく待てとの連絡。1カ月以上過ぎた3月11日になって、ようやく手続き終了の連絡をもらった。開示費用を支払った文書は、調整が繰り返され、「議事録」と呼べるものに程遠かった。「鉄道局はリニア推進の立場であり、公平・公正な調整役ではない。国の新しい有識者会議のメンバーを公平・公正にするために、県からメンバーを入れる必要がある」、「全量回復と水質保全を大前提とした上で、JR東海の責任において、不測の事態に対し恒久的な対策を行う確約がない限り、基本協定の締結は認められない」、「想定外の事態(地下水の枯渇)に対し、誰も責任を取り続けることができない。JR東海は100年、200年、300年、400年と責任を取り続けてくれない」などが首長の意見だが、すべて匿名扱い。  昨年12月、雑誌『静岡人vol4リニア南アルプストンネル 川勝知事はなぜ、「闘う」のか?』を発刊したあと、雑誌寄贈を兼ねて、10市町長に取材を申し込んだ。5市町長は受けてくれたが、日程調整を含めて残りの市長との面会はかなわなかった。藤枝市担当者は「北村正平市長はリニアに関しては知事と全く同じ考え。そう書いてくれて構わない」と回答した。  つまり、1月20日の会議は、リニア問題についてJR東海、国交省からいろいろ働き掛けがあるが、10市町長の「川勝知事一任」を決めるのが趣旨だったという。  政治家の会議でもあり、「非公開」はある意味、理解できる。ただ、川勝知事はすべてのリニア関連会議を「公開」と決めて、国交省に厳しい意見で求めるならば、まずは、「隗より始めよ」の格言を思い出してほしい。情報公開されたあの程度の意見が交わされたのであれば、「非公開」にする理由は全くないからだ。 知事の現地視察は時期尚早である  27日午前、金子社長の謝罪文が静岡県に届けられた。川勝知事は金子社長に「公の場で謝罪、撤回する必要がある」と述べ、金子社長は29日の会見で静岡県から抗議を受けた自身の発言を謝罪、撤回した。さらに、流域の10市町長に「謝罪」の手紙を送る旨も明らかにした。これで川勝知事が水嶋局長に『恥を知れ』と批判した問題は解決した。  26日の川勝知事コメントは、「面会等についてはJR東海の社長発言等を見守ったうえで改めて関係者と調整したい」としていたが、27日金子社長「謝罪」の手紙を受け取ると、川勝知事は会見で突然、現地視察をした上で金子社長と面会するのかどうか判断すると述べた。  早期の面会を要請した金子社長の手紙(20日付)について、川勝知事は静岡市と約束した三峰バイパストンネル(仮称)について、その後どうなっているのか、完成見通しをはっきりと表明せよ、リニアトンネルの作業道となる静岡市東俣林道の安全確保を放置したまま「(面会の)お願い」は筋違いなどとする手紙(22日付)を送っている。知事の手紙に対して、27日付金子社長「謝罪の手紙」は、トンネルについては「間もなく、静岡市と施工協定を締結した上で、工事発注を行う予定」、東俣林道は「12月に工事を開始した、作業員の安全については林道が完成するまでの間にしっかりと確保する」など説明されていた。  会見で川勝知事は「私は(トンネルや林道工事は)なさっていないのではとの認識だったので、実際にどのくらい進んでいるのか見に行きたい。6月中下旬にでも現場を見て判断したい」などと発言、降って沸いたような現地視察が決まったのである。  静岡市に確認すると、三峰バイパストンネルは金子社長の手紙通り、施工協定締結前なので、昨年6月の知事視察と現地の状況は全く同じとのこと。東俣林道の改良工事については、12月から沼平ゲートから1・5キロ区間の舗装工事に入ったが、作業のできない1、2月期の冬期間を挟み、現在、付帯の排水構築物などの埋め込み工事を行っている。舗装工事にまだ入っていないようだ。つまり、トンネルも林道工事も現地の状況は見た目では昨年とほぼ同じ状況である。昨年10月の台風19号の被害を受けた、林道崩落区間に仮設道路を設置するなど静岡市の災害復旧工事視察は知事の任ではないだろう。  現在の状況を知りたいのであれば、多忙を極める知事が現地に出向くまでもなく、担当者が早期に現地に入り、Webを使い、その状況を詳細に知事に報告すれば済む。その上で判断すればいい。  今回の「川勝劇場」では、新たなハードルをつくり、肝心の「議論」を遠ざけているとしか見えない。これでは周囲が不信感を抱くだろう。金子社長から、ちゃんとした「謝罪」を受けたのだから、トップ同士の「議論」を早急に持つべきである。大井川流域10市町長は「川勝知事一任」でまとまっているはずだ。  「科学的、工学的な議論」は県委員を交えた国の有識者会議に任せ、「政治的な議論」の場となる川勝、金子トップ会談スタートを周囲は期待している。当然、これは「公開」でやってほしいがー。 ※タイトル写真は「川勝劇場(激情?)」となった27日の知事会見